モノづくり企業においてDX推進は重要ですが、中でも設計部門についてDXを進めることは最優先事項と言えます。
本記事では、設計DXを行うメリットや、DXを推進できる技術、考え方についても解説しながら、実際に設計DXを効果的に行っている企業の事例もご紹介します。

目次
設計DXとは?

モノづくり企業でもDXを進めていくことが急務ですが、設計部門のDXから始めるのも一つの手段です。
本章では、設計DXの概要や求められる背景について解説します。
設計DXの概要
設計DXとは、モノづくり企業のプロセスのうち、設計部門のDXを推進する取り組みのことです。
単に設計業務のデジタル化のことではなく、設計データを一元化したり、製造部門など他部署との連携を容易にし、全体の効率を上げていくことで新しい価値を生み出す一連の改革を指します。
日本では、欧米に比べて3DCADの普及率が低い傾向があり、いまだに紙ベースの設計図が活用されていたり、2DCADで出力したPDFの図面を中心に受け渡しがされていたりするのが現状です。
しかし、紙やPDFベースの図面のままでは、データ活用や分析が難しくなってしまいます。
設計部門での代表的なDXの例としては、3DCADの活用やクラウド型の設計ツールの導入が挙げられます。
設計データを部門を越えて活用できるような仕組みづくりがDXにつながります。
設計DXが求められる背景
モノづくり企業のプロセスのうち、設計DXが求められる背景としては、製造業全体の環境の変化が挙げられます。
近年では国内・国外の社会的情勢の影響を受け、調達先や生産拠点の変更や拡充をする必要性が高まりました。
上記を実現するためにも、サプライチェーン全体でデジタル技術を活用したDXによりモノづくりの各工程の取り組みを可視化していくことが重要です。
2020年のものづくり白書の中でも、モノづくりの各工程の中で、設計段階では製品の品質やコストの8割を決定すると示されています。
参考:製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進:2020年版ものづくり白書(METI/経済産業省)
開発が進むと、設備や生産方式が確定し仕様変更の自由度は低下するため、設計段階でのDXを進めることは品質向上やコスト削減にも大きく影響すると言えます。
設計DXを推進するメリット

次に、設計DXを推進するメリットについてご紹介します。
メリットは以下の通りです。
- 設計業務の効率化とコスト削減が可能
- ニーズに柔軟に対応できる
- 製品の品質が向上し、リードタイム短縮へつながる
- 社内連携が高まり全体の効率が上がる
以下で詳しく解説します。
設計業務の効率化とコスト削減が可能
設計DXを進めると、設計業務の効率化やコスト削減が可能です。
CADやCAEのツールを活用をすれば、手作業による設計ミスが減り、手戻りを減らせます。
また、3DCADの活用によって、紙面や2Dで図面を確認するよりも体積や表面積など立体的な図面の制作が可能になります。
立体的に図面を確認することで試作品制作のハードルが下がり、設計業務の効率化・コスト削減が期待できるでしょう。
手作業やPDF出力した図面の利用による設計業務は属人化が懸念され、技術の伝承も滞りやすくなります。
クラウド型の設計システムを導入すれば、技術を共有できるため、技術伝承の問題解消につながります。
ニーズに柔軟に対応できる
設計DXを進めると、ニーズに柔軟に対応できることもメリットの一つです。
現在は消費者のニーズも多様化し、顧客からも仕様変更の依頼が多くなったり、短い納期を求められたりと、ニーズに柔軟に対応する力が求められています。
2Dでの図面や紙面で顧客とイメージを共有するよりも、3Dで立体的な図面を共有できた方が、完成品のイメージを双方が想像できるため、開発時の設計変更の回数を減らすことも可能です。
設計部門のDXを進めて精度を高め、試作品の設計を効率化できれば、顧客の要望に応じた齟齬が起きづらい製品開発につながります。
製品の品質が向上し、リードタイム短縮へつながる
設計DXを進めると、製品の品質向上やリードタイムの短縮が可能です。
設計システムによっては、設計ルールを設定し、ルール違反があった場合にアラートをだせるものもあります。
違反箇所や違反理由も表示されるため、修正の判断が行いやすくなり、設計品質の向上や手戻り防止など設計リードタイムの短縮が期待できます。
万が一製造時に製品に不具合が出てしまった場合、原因の解析を行う際にも、設計時の内容をデータとして残しておくことで原因箇所の早期発見が可能です。
さらに、既製品の設計変更の場合にもスピード感を持って対応できるため、市場への投入も早くなるメリットがあります。
社内連携が高まり全体の効率が上がる
さらに、設計DXを進めると社内での連携が高まり全体の効率が上がるメリットもあります。
設計DXができておらず、設計部門と製造部門が連携できていない場合のデメリットについて、2020年のものづくり白書でも以下のように触れられています。
|
引用:第1部第1章第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進:2020年版ものづくり白書(METI/経済産業省)
また、同ものづくり白書でも、製品設計力や工程設計力の伸びと部門間の連携状況との関係性を比べた際に、部門間の連携がとれている企業ほど、製品設計力、工程設計力が向上しているとの分析結果が発表されています。
以上から、設計DXに力を入れて取り組むことは、社内での連携が高まり工場全体の効率アップにつながると言えます。
設計DX推進を阻害してしまう要因
設計DXを進めたいと思っても、社内の雰囲気やさまざまな要因から進まないケースも見受けられます。
本章では、以下の4点に沿って設計DXの阻害要因を解説します。
- ベテラン技術者の減少
- 設計プロセスの属人化
- デジタル人材やDX人材の不足
- 部門間のデータ連携が複雑化している
以下にて詳しく解説します。
ベテラン技術者の減少
設計DXがなかなか進まない要因の一つには、ベテラン技術者の減少が挙げられます。
技術の伝承が進んでいないモノづくり企業では、設計DXに取り組むよりも前に、ベテラン技術者の引退によって貴重なノウハウが失われています。
昔ながらの「見て覚える」教育方針は、少子高齢化の影響で若年労働者が減少し、働き方改革で残業時間も規制されている現在では通用しません。
ベテラン技術者の減少は今後もさらなる加速が予測されるため、早急に技術伝承のためのDX施策を立てる必要があります。
設計プロセスの属人化
次に、設計プロセスが属人化してしまっていることも設計DXが進まない要因の一つです。
前述の通り、設計業務は紙ベースの図面やPDFでの図面データの蓄積が多く、詳細なデータの保管や共有が十分になされていない現状があります。
紙面やPDFデータしか残っていないと、設計担当者に負荷や問い合わせが集中し、結果的により属人化が進んでしまいます。
属人化している設計業務のDXを進めるには、クラウドベースの設計システムを活用するなど、設計過程においてもデータとして残すことも検討しましょう。
デジタル人材やDX人材の不足
設計DXが進まないのは、デジタル人材やDX人材の不足も一因です。
生産年齢人口は減少の一途をたどり、モノづくり企業でも慢性的な人手不足が続いています。
設計や製造の技術者の部門でも人手不足が続いているにもかかわらず、デジタル人材やDX人材の育成や採用にまで手が回らない企業が多いのが現状です。
部門間のデータ連携が複雑化している
設計DXが進まない要因の一つとして、部門間のデータ連携が複雑化していることも挙げられます。
同じ製品を扱っているにもかかわらず、部門ごとに各々のシステム導入をしてしまうことで、データ連携ができずに複雑化してしまっているケースが多く見受けられます。
設計DXに取り掛かろうとしても、他部門との連携を考えた際にシステムの乗り換えが煩雑な作業となるため現場から難色を示されてしまい、なかなか進められないこともあります。
設計DXを推進する技術的なポイント

本章では、設計DXを推進するための技術的なポイントを解説します。
- 3D設計を進める
- AIやビッグデータの活用
- 社内のデータ連携を進める
以下で詳しく解説します。
3D設計を進める
設計DXを推進するための技術的なポイントの一つは、3D設計を進めることです。
3D設計とは、3DCADやCAM、CAE、VRといったデジタルツールを活用して、3次元で設計を行うことを指します。
さらに、バーチャルエンジニアリングが実施できれば、企画や設計の段階から製造までのプロセスをデジタル化し、仮想環境上で検証テストの再現まで可能です。
以下の記事では、3D設計のメリットや3D化を進めるためのポイントを解説しておりますので、ぜひご一読ください。
いま、製造業が「3D設計」を推進すべき理由 ~DXのカギとは?
また、以下の記事では、2DCADと3DCADの比較や3DCAD活用の効果を詳しくご紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
AIやビッグデータの活用
次に、設計DXを進めるための技術的なポイントとして、AIやビッグデータの活用も挙げられます。
主に化学産業で行われている「マテリアルズ・インフォマティクス」の取り組みをご紹介します。
マテリアルズ・インフォマティクスは、AIやビッグデータなど情報科学の原理を素材分野へ適用する取り組みで、機械学習アルゴリズムやデータマイニング(膨大なデータから未知の知識やパターンを発見する)といった技術を活用して、膨大な実験データや論文から新素材を見つけ出し、材料開発の効率化を図っています。
半導体やEV搭載用の電池などの需要が増加していることで、新素材の開発競争が激化する中、新素材開発には従来以上の時間短縮や効率化が求められています。
設計部門でも経験や勘に頼り時間やコストが掛かりすぎる側面があるため、AIやビッグデータの活用が進めば、個人の持っている情報よりも遥かに膨大な情報量を短時間で集約して設計や開発を進められます。
社内のデータ連携を進める
設計DXを進める技術的なポイントとして、社内のデータ連携を進めることも重要です。
前述したように、モノづくり企業では、同じ製品にかかわる部門のシステム導入がバラバラで、連携が取れていないケースも多く見受けられます。
また、Excelのデータ管理を続けて、必要なときに適切なデータを取り出すのに時間がかかり非効率になってしまっているケースも散見されます。
できる限り製品のデータは部門間で共有できるように、社内のデータ連携を進めていくことが効率向上への近道です。
社内のデータ連携を進めるためには、PLMシステムの導入がおすすめです。
PLMシステムとは、製品開発から製造、市場投入、廃棄までの製品ライフサイクルについてのデータを一元管理が可能なシステムです。
情報のデジタル化、データベース化により製品情報を集約して品質管理や迅速な市場対応が実現できます。
下記の記事で詳しくPLMシステムについて解説していますので、ぜひご覧ください。
PLMシステムの導入で何が実現できる?システム導入時の注意点や3つの事例をご紹介
PLMとは?PDMとの違いや機能、導入のメリットを詳しく解説
設計DXを進めるためのポイント

次に、設計DXを進めるためのポイントについて解説します。
DXを進めようとしても、周囲の反発などで思ったように進まないケースもあります。
技術面以外にも、DXを進めるには以下の点の理解が大切です。
- まずはトップダウンで進める
- スモールスタートで始めて成功体験を得る
- DX人材を社内で育て、デジタル人材は外部委託も検討する
まずはトップダウンで進める
設計DXにかかわらず、大きな変革を進めるためには、まずはトップダウンで進めていくことが重要です。
ボトムアップでの改革が間違いなのではなく、DXといった大きな改革を起こしたい場合には、経営陣からの方針の表明と、部門別の大まかな指示を行うことで、足並みのそろったDXが期待できます。
方針を経営陣→部門長→課長→班長→担当者レベルまで落とし込み、方向性のズレがないようにDXを進めていきましょう。
スモールスタートで始めて成功体験を重ねる
また、DXを進めるためにはスモールスタートで始めて成功体験を重ねることも重要です。
社内システムの変更などはトップダウンかつ社内全体の動きとして進めるべきですが、大きな動きばかりだと担当者レベルではシステムの変更に関する負荷や習得のストレスばかり感じてしまい、不満が募りDXが停滞するリスクがあります。
社内システム変更などの大きな動きとともに、チーム単位でのIoT端末導入や会議議事録のAIアシスタントでの作成など、手軽に始められる業務改善をスモールスタートで始めて成功体験を重ねてみることもおすすめです。
成功体験を重ねたチームは、DXへの「手間がかかる」「時間がもったいない」といったマイナスイメージが払拭され、将来的に自分たちの業務効率アップにつながると考えてDXへ取り組むことが期待できます。
DX人材を社内で育て、デジタル人材は外部委託も検討する
設計DXを進めていくためには、DX人材を育て、デジタル人材の外部委託を検討するのもおすすめです。
DX人材と聞くと、「デジタルスキルに長けた人」のイメージが一般的です。
しかし、DX人材とデジタル人材には違いがあります。
|
DX人材とデジタル人材を混同してしまうと、中小企業では「うちにはIT部門がないからDX人材なんて育成しようがない」と考えてしまいます。
しかし、DX人材のスキルのうち特にDXを推進する力は、社内での育成が可能です。
一方で、デジタル人材に関しては社内で育成しようと思っても専門部署を立ち上げたり、経験者を採用して社内で育成を行ったりする必要があり、時間とコストが掛かってしまうデメリットがあります。
よって、DXになるべく早く着手するためにも、DX推進を行うためのDX人材は社内で育成し、デジタル人材については必要な部分の外部委託を検討するのも一つの手段です。
設計DXで効果を上げている事例

本章では、実際に設計DXを行い、効果を上げている企業の事例をご紹介します。
【事例】生成AIを活用してモーター設計を行った事例
某大手家電メーカーでは、生成AIを活用した設計DXを実現しています。
20年以上改良を続けてきた電動シェーバーの改良に関して、熟練技術者の経験とスキルでも限界を迎えていました。
そこで、新しい試みとして商品開発のモーター設計に生成AIを活用し、ムーバーの構造設計をゼロベースで設計し、シミュレーション結果を元に自動で改善するシステムを構築しました。
結果としては、生成AIが設計したモーターは熟練技術者の設計時よりも出力が15%アップに成功しました。
また、多大な時間を掛けずにAIによる分析で改善が行えるようになったことも大きなメリットと言えます。
【事例】設計から製造工程までプロセス・ツールをつなげた事例
某大手電機メーカーでは、設計開発プラットフォームを開発し、設計から製造工程までプロセスやツールを連携する設計DXを実現しています。
市場や環境の変化による製品の多様化や納期短縮、製品の複雑化に対応するために設計DXに取り組みました。
設計のプラットフォームを構築し、設計データの管理システム、プロジェクトの管理システムなどの製品開発に必要となるシステムの統合も行いました。
結果として、設計から製造工程までプロセスやツールを連携できたことで、製品開発プロセスでの手戻りが減少し、品質の向上と納期の短縮に成功しています。
【事例】工場拠点間をバーチャル空間でつなぎ設計データの共有をした事例
某大手電機メーカーでは、2つの工場拠点間をバーチャル空間でつなぐことで設計データ共有をする設計DXを実現しています。
コスト削減と外部環境の変化に対応するために、工場拠点間で設計データを共有し、生産効率と工場間の設計負荷の分散を可能にしました。
さらに、設計負荷のバランスを取れるようになったことで、多品種少量生産のニーズの取り込みにも成功しています。
【事例】機械系パラメトリック3DCADを活用し設計自動化に成功した事例
産業用装置、設備の製造を行う某企業では、機械系パラメトリック3DCADを活用し設計の自動化する設計DXを実現しています。
パラメトリック3DCADとは、形状を作る際にパラメーター(媒介変数)を元に寸法を定義する機能があるCADです。
パラメトリック3DCADと独自のプログラムを融合させ、顧客の要求に対して基本設計と詳細設計の自動化に成功しました。
設計の大幅なリードタイム短縮や設計エラーの削減だけでなく、3Dモデルを設計や営業、製造、調達で共有できるようになり、生産一連のリードタイム短縮や品質向上に貢献しています。
【事例】簡易図面作図システムを構築し、顧客への提案スピードが大きく向上した事例
産業用器具を製造する某企業では、簡易図面作図システムの構築により顧客への提案スピードを大きく向上させる設計DXを実現しています。
従来売上の大半が個別受注生産型で、営業のヒアリング内容に不足があったことによる齟齬や設計部門の負荷の大きさが課題でした。
簡易図面作図システムを構築したことで、予め関連する部品のモデルをマスターとして登録し、顧客が要望する製品の仕様をツールから選択すると、簡単に営業用の簡易図面を自動で作成できるようになりました。
設計部門の業務負荷軽減に成功しただけでなく、営業部門の提案スピードも向上し、顧客満足度の向上につながっています。
設計に関する最新技術の導入や社内でのDXの気運を高めて設計DXを進めよう

本記事では、設計DXについてメリットや、DXを推進できる技術、考え方についても解説しながら、実際に設計DXを行っている企業の事例もご紹介しました。
設計DXを進めるには3DCADやPLMなど後押しするシステムの導入も重要ですが、同時に社内でトップダウンでの方針の表明、成功体験の積み重ねやDX人材の社内育成などのマインドセットも進めていきましょう。
弊社では、本記事でご紹介したPLM導入のサポートを行っております。
下記のホワイトペーパーでは、PLMの導入メリットや導入の進め方のポイントをご紹介しておりますので、ぜひご一読ください。
おすすめのお役立ち資料はこちら↓

PLMって?何ができる? どのように導入を推進する?
これから始める 「PLM導入ガイド」
