モノづくりにおいて、工場全体の稼働状況を見える化すると、現状把握や問題解決、課題発見につながります。
本記事では、工場の稼働状況を見える化するメリット、阻害要因や、見える化するために役立つ指標、データ集計や分析方法をご紹介します。
さらには見える化を進めるにあたってのステップについてもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
工場の稼働状況を見える化するメリット

工場の稼働状況の見える化とは、設備の稼働状況や作業者の負荷、生産計画進捗などのデータを収集し、従業員がすぐに確認できる状態を構築する取り組みのことです。
本章では、工場の稼働状況を見える化するメリットをご紹介します。
- 稼働率の向上につながる
- 異常箇所の早期発見が可能
- 具体的な目標を持って業務に取り組める
- 属人化の解消
稼働率の向上につながる
工場の稼働状況を見える化するメリットの一つは、稼働率の向上につながる点です。
稼働状況を見える化し、リアルタイムで監視できれば、設備の故障や機械の不具合を事前に予測し、チョコ停やドカ停を防げるため稼働率の向上につながります。
チョコ停は数十秒〜数分間の停止であるため、稼働率に影響がないと見られやすい傾向がありますが、複数の工程で一日に何度か起こっていると合計で1時間近いロスが出ている可能性もあります。
また、工程間の稼働データを比較することで、必要以上に人手を要していたり、滞留が起きている工程を発見し、ボトルネックとなっている原因を特定できます。
ボトルネック工程とは、製造工程のなかで、もっとも低いパフォーマンスとなっている工程のことです。
見える化ができていないと、稼働率を改善したい場合にはIoT機器を設備に取り付けて検証を行ったり、作業者の処理状況を計測したり、さまざまな検証を行う必要があります。
しかし見える化ができていれば、すでにデータは取れているため、課題に対してすぐにさまざまなアプローチから検証できます。
したがって、工場の稼働状況を見える化すれば、稼働率の向上につながります。
異常箇所の早期発見が可能
工場の稼働状況を見える化するメリットとして、異常箇所の早期発見が可能になる点も挙げられます。
IoTツールなどを活用してリアルタイムで監視していても、少なからず急な故障やトラブルは起きてしまいます。
稼働状況の見える化ができていれば、突然の設備トラブルの場合にも原因箇所の早期発見が可能となり、復旧に向けて迅速な対応を行えます。
さらに、迅速な対応ができれば、設備の停止時間を最小限に抑えられます。
具体的な目標を持って業務に取り組める
稼働状況の見える化を行うと、具体的な目標を持って業務に取り組めることもメリットの一つです。
全体の生産量に対しての目標値などは、設定されてもなかなか実感しづらいものです。
しかし、稼働状況の見える化ができていれば、製造工程全体だけでなく、工程単位、さらには作業者個人の担当業務単位での目標数値を設定できます。
工場の現状をデータで明確に把握できるようになると、作業者個人の生産性や作業効率が向上して工場全体の生産性向上を実感でき、成果を実感できます。
したがって、稼働状況の見える化には、作業者が具体的な目標を持って業務に取り組めるメリットがあります。
さらには改善活動の面でも、効果測定時にデータ収集が容易で、作業者が改善の効果を実感しやすいメリットがあります。
効果が実感できれば、業務に対する理解を含め、やりがいを感じながら改善活動を行えます。
属人化の解消
属人化の解消につながることも、稼働状況を見える化するメリットです。
稼働状況を見える化すれば、作業手順や工程の状況、ノウハウのデータベース化ができるためです。
属人化してしまうと、担当者の不在時にトラブル対応ができなくなってしまったり、ばらつきが生じやすくなったりといったデメリットがあります。
稼働状況の見える化によって、以下のように属人化を解消できます。
- 作業標準書を作成できる
- ばらつきが解消できる
- 新人育成の際が効率化できる
したがって、稼働率を見える化できれば、属人化の解消にも効果があることがメリットと言えます。
稼働状況の見える化ができていない原因

次に、稼働状況の見える化ができていない原因について解説します。
具体的には、以下のとおりです。
- 目的を持ったデータ収集ができていない
- データの蓄積のみで分析できていない
- データを活用した目標設定にたどり着いていない
以下で詳しく解説します。
目的を持ったデータ収集ができていない
稼働状況の見える化ができていない原因には、目的を持ったデータ収集ができていないことが挙げられます。
稼働状況の収集自体はできていたとしても、紙媒体の帳票やExcelでのデータ入力を行い工程内でデータ蓄積をするだけで、工場全体で目的を持って共有できていない状態のモノづくり企業も少なくありません。
システムを導入していたとしても、帳票の内容や機械の稼働データを手入力するようなシステムを導入してしまうと、かえって現場の負担が増え、データ活用どころではなく蓄積で手いっぱいになるケースもあります。
また、手入力での入力ミスや記入漏れにより正確性に欠けるデメリットもあります。
データの蓄積のみで分析できていない
稼働状況の見える化が進まないのは、データ蓄積のみで分析ができていないことも原因の一つです。
せっかくシステム導入したにもかかわらず、使いこなせずに蓄積データを有効活用できていないケースも見受けられます。
数字を集めるだけでは分析ができないため、適切なグラフやチャートで可視化しなければ分析にはつながりません。
よって、データの蓄積のみで分析できていないことは稼働状況の見える化ができない原因の一つと言えます。
データを活用した目標設定にたどり着いていない
稼働状況の見える化ができていない原因には、データを活用した目標設定にたどり着いていないことも挙げられます。
システム導入によりデータの蓄積やグラフによる可視化までは進んでいたとしても、活用して目標設定を行うための分析力やノウハウが不足しているケースです。
工場の生産性向上のためには、データを組み合わせながら課題を発見し、目標を設定しなければなりません。
また、システムを導入している場合でも、工程や部門ごとに別のシステムを活用してるようなケースでは、データの分散が発生し、分析するにあたって障壁となっているケースも見受けられます。
稼働状況を見える化するための指標

次に、稼働状況を見える化するための指標について解説します。
主に以下の3種類に分けてご紹介します。
- 工程に関する指標
- 設備の稼働時間に関する指標
- 品質に関する指標
以下で詳しく解説します。
工程に関する指標
稼働状況を見える化するための指標として、まずは工程に関する指標からご紹介します。
具体的には以下の指標が挙げられます。
指標 |
内容 |
計算式 |
特徴 |
リードタイム |
発注から納品まですべての工程にかかる時間 |
各工程の掛かった時間を合算する |
・待ちや運搬も含む。 ・製造リードタイム、生産リードタイム、納品リードタイムなどに分かれる |
サイクルタイム |
製品1個単位の工程での作業開始から完了までのサイクルに実際にかかる時間 |
稼働時間/実際の生産数 |
純粋な作業時間のみ |
タクトタイム |
製品1個の製造にかける時間 |
利用可能な稼働時間/必要生産数 |
休憩やメンテナンス時間は差し引く |
工程に関する指標については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひご一読ください。
タクトタイムとは|サイクルタイムとの関係性や効率化の方法を解説
設備の稼働時間に関する指標
稼働状況を見える化するための指標として、設備の稼働時間に関する指標をご紹介します。
具体的には以下の指標が挙げられます。
- 設備稼働率
- 設備総合効率(OEE)
- 設備の故障に関する指標(MTBF、MTTF、MTTR)
以下で簡単に説明します。
設備稼働率
設備稼働率は、稼働可能な設備がどの程度生産に使用されたかを表す指標です。
以下の計算式で求められます。
設備稼働率(%) = 生産実績 / 生産能力 × 100 |
設備総合効率(OEE)
設備総合効率(OEE)とは、「Overall Equipment Effectiveness」の略称で、生産設備や生産工程の稼働効率を図る総合評価となる指標です。
以下の計算式で求められます。
設備総合効率(OEE) = 時間稼働率 × 性能稼働率 × 良品率 |
なお、設備稼働率や設備総合効率(OEE)については、以下の記事で詳しく解説しておりますのでぜひご一読ください。
設備の故障に関する指標(MTBF、MTTF、MTTR)
設備の故障に関する指標についてもご紹介します。
指標 |
内容 |
評価 |
MTBF:平均故障間隔(Mean Time Between Failures) |
平均故障間隔:故障と故障の間の平均稼働時間 |
設備やシステムの信頼性を評価できる |
MTTR:平均修復時間(Mean Time To Repair) |
平均修復時間:故障後のシステム修復にかかる平均時間 |
故障した後の復旧効率を評価できる |
MTTF:平均故障時間(Mean Time To Failure) |
平均故障時間:修理不能な設備が故障するまでの平均時間 |
設備やシステムの寿命を評価できる |
故障についても、停止時間や復旧までの時間など、さまざまなデータを計測すれば設備やシステムの信頼性、復旧効率や寿命などの分析ができます。
品質に関する指標
次に、稼働状況を見える化するための指標として、品質に関する指標をご紹介します。
品質に関する指標には主に以下のような指標が挙げられます。
指標 |
内容 |
計算方法 |
不良率 |
製造したなかで不良品が占める割合 |
不良品の数 / 総生産数 |
直行率 |
不良による手直しや再加工がなく、最初の工程から最終工程までを一度で通過した良品の割合 |
1回目の生産で良品となった数 / 総生産数 |
手直し率 |
生産された製品のうち、手直しが必要になった製品の割合 |
手直しが必要な製品の数量 / 総生産数 |
良品率 |
製造したなかで良品が占める割合 |
良品の数 / 総生産数 |
歩留まり率 |
投入した原材料や部品からどれだけの完成品が得られたかの割合 |
完成品数 / 投入数 |
品質に関する指標については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご一読ください。
稼働状況指標のデータ集計・分析方法

稼働状況を見える化するための指標を解説した後で、本章ではデータ集計・分析方法について解説します。
- データ集計と分析方法の違い
- データ分析の基礎
- データ分析の手法
以下で詳しく解説します。
データ集計と分析方法の違い
まず、データ集計と分析方法の違いについて解説します。
データ集計の概要
データ集計とは、データを収集して合計する作業のことです。
企業においては、基幹システムなどからデータを集めて、基本の統計量や分布を通じて、現状を正確に把握するために行われます。
モノづくりにおいてデータ集計を行う際には、製品別、工程別、作業員別など、なるべく細かく分類できるように収集を行わなければ、正確な分析が行えません。
また、IoT機器などを利用して常に計測し、どの期間のデータでも取り出せる状態を作るとより正確性が高まります。
しかし、データ集計だけでは課題達成や問題解決につながるわけではなく、データ集計後に分析を行うことが重要です。
データ分析の概要
データ分析とは、収集されたデータを、分類し、整理して情報を抽出する作業のことです。
データ集計との大きな違いは、データ集計が現状把握を目的としているのに対し、データ分析は分類や構成を把握してデータの特徴を抽出する点です。
集計されたデータを時間経過や工程、個人、機械別などに分類し、抽出を行います。
データ分析は、意思決定の際に役立ちます。
データ分析の基礎
データ分析には、以下の3つの原則があります。
- 比較
- 時系列
- 要因分析
以降で詳しく解説します。
比較
データ分析の原則の一つは、データの比較です。
データ単独で見ても、良い傾向を表しているのか、悪い傾向を表しているのか判別できません。
他社との比較、他の部門や工程、製品別などとの何かしら比較を行わない限りデータに対しての評価が行えません。
ただし、分析軸を変えることによって数値の意味が変わるケースもあります。
比較を行う際には、単に目の前の数値を比較するだけでなく、置かれている状況や担当者、作業方法といった要素を細かく考慮しなければなりません。
時系列
データ分析の原則として、時系列で表すことも挙げられます。
時系列では、時間を軸にして数値を比較します。
収集したデータの推移について、時間に注目して数値の変動を分析して傾向をつかみ、将来の予測に活用します。
時系列の場合には、折れ線グラフや棒グラフを用いると変動が視覚化できます。
例えば、設備や機械の稼働率を時系列で表すことで、寿命や故障の前兆を予知し、ドカ停を未然に防止し、工程全体の稼働率を下げずに生産を続けることも可能です。
要因分析
データ分析の原則として、要因分析も挙げられます。
要因分析とは、集計されたデータから傾向や課題を見つけ、原因特定を行うことです。
要因分析では、指標に対してマイナスやプラスになる要素を探し当てる必要があるため、より長期間、広い範囲でのデータ計測や集計が重要です。
モノづくり現場では、主に不良率を改善したり、問題が起きた際に原因を特定する際に用いられます。
データ分析の手法
データ分析のためには以下のような手法が用いられます。
用途 |
活用される手法 |
現状把握 |
クロス集計、散布図など |
要因分析 |
相関分析、回帰分析、多変量分析など |
予測 |
クラスター分析、時系列予測など |
以上のように、データは収集するだけではなく、目的を持って集計・分析を行う必要があります。
稼働状況を見える化するステップ

本章では、稼働状況を見える化するためのステップについて解説します。
具体的には、以下のステップで進めると効果的です。
- 生産管理システム導入
- IoTツールによるデータ収集
- データの可視化
- AI活用による予測
以下で詳しく解説します。
生産管理システム導入
稼働状況を見える化するためのステップとして、まずは生産管理システムを導入します。
生産管理システムでは、モノと情報の流れを管理します。
生産計画、受発注管理、品質管理などのモノづくり企業の各部門で必要な機能が搭載されています。
各部門で同じシステムを活用できれば、データの一元管理が可能です。
生産管理システムを導入すれば、データ管理における属人化や部門ごとの個別管理からの脱却につながります。
IoTツールによるデータ収集
次に、IoTツールによるデータ収集を行います。
できる限りIoTツールを活用して、設備や機械から自動でデータを取得できるようにします。
手入力でのデータ管理から自動データ収集へ変更できれば、以下のようなメリットがあります。
- 手入力によるミスを削減できる
- 現場作業員が付加価値作業に集中できる
- リアルタイムにデータを収集でき数値上の時間経過を正確に分析できる
- 機械が停止するなどのトラブル時にすぐに稼働データを確認できる
データの可視化
次のステップでは、システムに蓄積されたデータを、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールなどを使って可視化します。
可視化が進まない原因でもお伝えしたとおり、データの蓄積だけで止まってしまい、グラフやチャート形式での見える化まで進んでいないモノづくり企業も少なくありません。
BIツールを使えば、工程の作業内容や設備機械に詳しいベテランの手を借りずとも、データをグラフやチャートの形式で見える化が可能です。
リアルタイムで収集したデータをすぐに見える化できれば、会議のための資料作成や情報共有の時間を大幅に短縮でき、意思決定もスムーズに行えます。
AI活用による予測
最後のステップは、AI活用による予測です。
収集して蓄積したデータをAIに学習させられれば、予測やシミュレーションに活用できます。
需要予測や受発注管理など、ベテランの勘や経験で行っている企業も少なくありません。
データ分析をAIがスピーディーに行うことで、生産計画や意思決定をより正確かつスムーズに行えます。
以上のように、稼働状況の見える化はステップに沿って行うことをおすすめします。
稼働状況の見える化に成功した事例

本章では、稼働状況の見える化に成功した事例について解説します。
稼働状況の見える化により加工時間を大幅に削減できた事例
油圧機器を製造する企業さまでは、正確かつリアルタイムに稼働時間や稼働率を把握する環境を整備するために、工場内の加工設備に搭載される表示灯から設備稼働状況を無線で収集しました。
低コストで設備稼働状況を可視化でき、以下の効果を実現しています。
- 歯切り加工の条件を見直し、加工時間を1本あたり40 秒削減
- 設備の非稼働時間の見える化で、時差勤務などを検討し生産能力の向上を実現
- 毎日の稼働状況データの取得とグラフ作成を自動で
- 行うことで、会議資料の準備時間を年間約95時間軽減
工程全体を見える化して予防保全につなげた事例
大手食品メーカーの企業さまでは、以下の課題を解決するために稼働状況の見える化に取り組みました。
- トラブルが発生する要因や判定のルール化がされておらず、人の勘や経験に頼っていた
- 機械異常などによりラインが停止すると生産が止まり、トラブル対応に人手と時間を要していた
具体的には、温度、振動、圧力、電流などのセンサを追加し、食品の仕上がりに関わるデータを設備から収集できるようにしました。
さらに、データ分析や診断についても自動化を行い、異常時には現場の機械の停止・警報出しまで自動で行えるようにしました。
結果として以下のような効果が出ています。
- 不良率の半減
- 異常時の早期発見を実現
- 振動解析によりベアリングの傷つきや劣化診断、異常振動を1ms単位で検出しポンプやモーターの故障を未然に防止し予防保全につなげた
工場の稼働状況の見える化ではデータの収集や蓄積だけでなく分析、予測まで進めることが重要

本記事では、工場の稼働状況を見える化する重要性や具体的な方法について解説しました。
工場の稼働状況を見える化すると、稼働率の向上や、異常の早期発見、目標設定の明確化、属人化の解消といった効果があります。
しかし、データ収集や蓄積のみで分析ができていないと、見える化が実現しているとは言えません。
見える化のステップとして、生産管理システムを整備してデータを一元化し、IoTやBIツールによる測定・分析、AIによる予測を活用し、効率的に稼働状況の見える化を行いましょう。
下記のホワイトペーパーでは、モノづくり企業での収益改善を図るための4つの具体的な施策と効率化に向けた改善ステップについて解説しておりますので、ぜひご一読ください。
おすすめのお役立ち資料はこちら↓

リードタイムの短縮、設計の標準化、情報共有の改善、生産管理の改善.... 個別受注生産の製造業に贈る、収益改善のノウハウブック!
収益改善を図るための4つの具体的な施策と
効率化に向けた改善ステップ
