「社員に働いた対価として報酬を支払う」「社員は働いたら給料をもらう」という関係は、当たり前すぎてあまり意識していないことかもしれません。そのため明細には何を書くべきか、意外と把握されていない経営者も多いようです。
正しい書き方で給与明細を交付するために、給与明細に明記すべき基本的な要素、間違った場合にはどのように対処したら良いのかを解説します。これを機に、正しい作成方法を知りましょう。
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給与明細を配布する理由・メリット
社員は会社の利益のために働き、人生の時間を使っているため、給料の内容を記載した給与明細は働く人にとって大事な書類です。
給与明細書の交付は会社の義務であり、会社への信頼性に関わる
給与明細を細かくチェックしない人も多く、労働基準法には明記されていないため、給与明細を作らなくてもいいと考える会社もいるようです。
しかし、所得税法においては、給与を支払う者は給与の支払いを受ける者に支払明細書を交付しなくてはならないと定められているため、従業員への給与明細書の交付は会社の義務とも言えます。会社への信頼性に関わるので、必ず交付が必要です。
社員が会社に求めることが反映されている
「働く人が会社に求めることは何か」。経営者側は社員が求めていることを理解しているようで、見えていないことがあるかもしれません。ここでリ・カレント株式会社が行った社会人の「仕事観(働く目的・譲れないもの・価値観)」(2023年度)の調査結果を見てみましょう。
1位 報酬を得るため
2位 会社のため
3位 社会に貢献するため
4位 お客さま・ユーザーを幸せにするため
5位 一緒に働く仲間をサポートするため
6位 自分が成長するため
7位 社会で高い地位を得るため
上記の条件が挙げられており、「報酬を得るため」はどの年代でも半数以上を占めています。やはり給与は働くうえで重要視されていると言えます。
社会人は「お金を得るために働く」といった理由で働いている人が多いです。7位の「社内で高い地位を得るため」についても給与が関係してきます。職場での役職や任せられる責任が上がるほど、給与もあがっていきます。
このように、社員が重要視する情報が記載された給与明細は大事な役割を果たしています。
給与明細作成時に必要な基本要素
給与計算明細書は含まれているべき情報を必ず記載して、社員からの信用維持に努めましょう。基本的に給与明細には「支給」「控除」「勤怠」を正確に明記するべきです。会計ではこの3つについて間違いがないように繰り返しチェックします。
支給
給料は基本給と手当といった支給額から控除額が差し引かれた額です。通勤手当を例にとって注意点を見てみましょう。
公共機関利用・・・通勤手当は1月あたり15万円までなら非課税
自家用車での通勤・・・限度額を超えた分を課税(距離によって変動)
このように条件によって変動するので、給与明細には細かく記載をします。手当には時間外労働手当や役職手当などがあり、それぞれ時間外労働が深夜なのか、普通残業なのかによって金額が変化します。そのため残業の場合は残業時間の記載をすべきです。
控除
保険料や税金が会社を通じて支払われたことを示すのが控除の欄です。控除がある場合は給与明細を作成する義務が会社側に生じるため、今は日本のほとんどの会社が作成して配布しています。
基本的に記載するのは所得税や住民税です。
健康保険料は会社との折半となり、計算方法は以下の通りです。
「標準報酬月額×保険料率」
個人でも全国健康保険協会のサイトで確認することが可能となっています。
雇用保険料も控除の対象です。事業によって一律ではないので、経営者にとっては知っておくべき内容と言えます。一般の事業だと雇用保険料率は0.90%に対し、建設業は1.20%、会社負担率は一般0.60%、建設0.80%と異なります。
勤怠(労働時間)
給与明細において、出勤日数などの勤怠情報もよく見られている項目の1つです。遅刻や早退などは計算が細かくなる場合もあるので繰り返し間違いがないようにチェックする必要があります。
有給休暇をとっている場合、給料はその日の分も加算されるので注意しましょう。中には残りの有給日数を給与明細に記載する会社もありますが、この記載は義務ではありません。
口座振込額
口座振込額は、支給額から控除額を差し引いた額です。さまざまな手当があり、控除もありますから、総支給額と差し引き給与額には当然差が出てきます。それを社員が自分で計算するというのは大変です。そのため、多くの会社では「口座振込額」というかたちで総支給額と差し引き給与額を分かりやすく記載しています。
給与明細の作成方法・流れ
給与明細の具体的な作成方法について見ていきましょう。まず、給与明細作成の流れを説明します。
① 勤怠と控除に関する書類を用意する
給与明細の項目について計算する前に、根拠となる書類をそろえる必要があります。必要な書類や情報は以下の通りです。
勤怠に関する記録 | タイムカードなど、従業員の勤怠情報が分かるもの |
控除に関する書類 | 健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書 |
住民税課税決定通知書 | |
健康保険と厚生年金保険の保険額表 | |
雇用保険料率表 | |
給与所得の源泉徴収税額表 |
② 勤務時間の集計を行う
まず、タイムカードなどの勤怠記録の情報をもとに、労働時間や残業時間を集計します。
休日出勤した日数や有給休暇の残日数も集計しておきましょう。
③ 残業時間を集計し残業代を計算する
普通残業時間、深夜残業時間、休日残業時間をもとに、残業代を計算します。労働基準法で定められた労働時間(法定労働時間=1日8時間)を超える時間外労働がある場合は、通常の給与に割増率を加えた金額を支払う必要があります。
④ 各種手当の計算をする
通勤手当や資格手当、役職手当、家族手当、住宅手当など、会社が支給を設定した種手当を計算します。通勤手当に関しては 公共交通機関を利用している人に支給する場合、1ヶ月15万円までは非課税とすることができます。(自動車や自転車などの交通用具を使用している場合は、通勤距離によって限度額が異なります)
⑤ 総支給額を計算する
基本給に、3~4の残業代や各種の手当を加算し、支給総額を算出します。なお、欠勤、遅刻、早退があった場合には、その時間分の賃金を減らします。
⑥ 各種控除額を計算する
社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料・雇用保険料)や課税支給額、源泉所得税、住民税を計算します。
その他、組合費や財形貯蓄など会社独自の控除項目がある場合は、それらの控除額も計算します。
⑦ 差引支給額を計算する
「総支給額 – 控除額」で、差引支給額を決定します。この金額が、従業員の口座に振り込まれる口座振込額(手取り給与)です。
給与明細の作成例
上記の流れで作成した給与明細の例がこちらです。大きく①差引支給額②支給③控除④勤怠の4つの構成で成り立っています。
給与明細の内容で間違いがあった時の対処法
繰り返し確認したとしても、給与明細に間違いが発生することも残念ながらあります。給料を少なく支払ってしまった場合は、翌月での精算は禁止されているということも理解しておきましょう。では、給与明細についてはどう対応すればいいのでしょうか。
本人に連絡
間違いが発生した場合に、一番悪い対応が本人に知らせないことです。信頼を失わないよう、まずは本人に知らせます。伝えるべきことは、「なぜ間違いが起きたかという原因」と「今後の再発防止策」です。
また、給与明細が正しいとして支給額が多かった場合、特に確認せずに社員が使ってしまうこともあります。現金支給であれば、いくら配布されたかが曖昧になるので、早い連絡が必要です。
情報の聞き取り・再作成
給与明細は正しいものを作り直します。再度の修正は手間と労力がかかってしまうので、落ち着いて情報に間違いがないかを確認することが大事です。有給日数や欠勤日数など、計算が間違うことが多いので、それらのデータを本人と確認していくことになります。
正しい明細書を渡す
正しい情報と照らし合わせて正しい明細書を作成します。ただ封筒に入れて本人に渡すだけでなく、本人と一緒に変更点を確認するとなお良いです。
社員が給与明細に求めること
企業で働く社員が給与明細で気に留めることは、基本内容だけではありません。ここでは、その他に考えられる社員のニーズについてご紹介します。
リアルタイムでの確認
アルバイトやパートで働いている社員は、今月はどれだけ働いたのか、どれだけ支給されるのかをリアルタイムで確認したいものです。そのニーズに応えられるWEB給与明細システムは導入を検討するとよいでしょう。
PCやスマホなどのデジタル明細書
紙の明細書だと、紛失すると再発行を頼まなければならないので、その点は社員が面倒に感じてしまうところです。ペーパーレス化でスマホでもPCでも確認できるようにすることで、より明細書を確認しやすくなります。

給与明細は基本項目を正確に
給与明細は給料に関する情報が記載された非常に重要な書類です。
給与明細には基本構成要素である、以下を正確に記載しましょう。
- 基本給や各種手当などの「支給」の金額
- 健康保険料や住民税など差し引かれている「控除」の金額
- 勤務日数や残業時間などの「勤怠」の状況
給与明細を正確に記載するには、手で作成するよりも、WEBで簡単に作れる給与明細サービスの利用がおすすめです。DAIKO XTECHでは、人事業務の効率化をサポートするWEB給与明細「i-Compass」を提供しています。詳しくは以下をご覧ください。