人事・給与

 

人的資本情報開示の義務化について解説!

企業の競争優位性や持続性の根源は「人的資本」にあるという認識の広がりの中で、上場企業には2023年3月期決算から人的資本についての情報開示が義務化されました。本記事では、義務化の背景や、具体的な開示事項例を解説します。

人的資本は企業競争力の源泉

企業の競争優位性や持続性の根源は無形資産であり、「人的資本」はその中核にあるという認識が世界的に広がっています。
米国市場(S&P500)では、時価総額に占める無形資産の割合は1995年時点の68%から、2020年時点では90%を占めるまでになっています。
一方、日本市場(日経225)では、時価総額に占める無形資産の割合は2010年時点で15%であり、2020年時点でも32%にとどまっています。
米国市場の時価総額はここ30年間でみると13倍に成長しました。一方日本市場の時価総額は1.3倍の成長にとどまっています。

このことから、わが国でも企業による人的資本への投資をさらに促進することはもちろん、その実施状況を投資家に適切に認識してもらい、評価される必要があります。人的資本についての情報開示の義務化にはこのような背景があります。

人的資本可視化指針

さて、人的資本は質的な側面について表現することが難しい無形資本です。そこで策定されたのが、内閣府による「人的資本可視化指針」であり、義務化された人的資本情報開示について、自社としてどのような内容を開示するのかを検討できるガイドラインになります。

参考リンク:内閣府「人的資本可視化指針」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/wgkaisai/jinteki/sisin.pdf

同指針が示す重要なポイントは、単に制度開示として要請される事項を列挙したものではないことです。
企業理念、企業戦略を明確化し、それに紐づけた人的資本としての指標を各企業が個別事項として定義することを推奨しており、その検討の観点として7分野19項目が紹介されています。

7分野19項目

7分野19項目は以下のように整理されています。

図表出所:内閣府「人的資本可視化指針」P28

そして、各項目の指標の設定例は人的資本可視化指針の付録としてまとめられています。

参考リンク:内閣府「人的資本可視化指針(付録)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/wgkaisai/jinteki/furoku.pdf

当社、DAIKO XTECHの開示内容を具体的な指標設定例としてご紹介します。

【戦略】

お客さまに対し、「価値あるしくみを創造する存在」であり続けるために、それを実現する「価値創造人財」の育成を基本方針とし、すべての社員が常に学び、成長を続けることができる教育・育成体制と、その能力と個性を最大限に発揮することができる環境を整備します。社員が価値創造に主体的に挑戦する企業文化の醸成と、社員の多様性やさまざまな価値観を受け入れる風土をつくりあげることで、企業の成長と社員の成長を実現します。

【上記戦略実現のために測定開示する、人的資本指標】

分野 指標 備考(計算式など)
育成 一人当たり生産性 付加価値額/社員数
育成 一人当たり教育投資 全社教育費実績/社員数
エンゲージメント 従業員アンケート結果 新職業性ストレス簡易調査の結果統計データ
流動性 離職率 年度毎の自己都合退職数/社員数
流動性 技術者数増減  
ダイバーシティー 女性管理職比率 女性管理職数/管理職数
ダイバーシティー 男女賃金格差 女性の平均年間賃金/男性の年間平均賃金
ダイバーシティー 男性育児休暇取得率 育休等を取得した男性従業員の数/配偶者が出産した男性従業員の数
ダイバーシティー 障がい者雇用率  
健康・安全 健康診断受診率  
健康・安全 重大な労災事故件数  
コンプライアンス コンプライアンス研修受講率  

以上のように、7分野19項目をすべて設定する必要はなく、例えば付加価値(価値あるしくみを創造)に対応して「一人当たり生産性」、すべての社員が常に学び、成長を続けることができる教育・育成体制に対応するのが「一人当たり教育投資」、社員の多様性やさまざまな価値観を受け入れる風土に対応して「離職率」といったように、自社の戦略に対して、関連性のある指標を決めて、継続的に開示するというのが基本的な対応となります

有価証券報告書への記載

上場企業の情報開示については、さまざまなルールがあります。その中で人的資本情報の開示については、2023年3月期以降の決算における非財務情報の開示義務の内訳として盛り込まれた形となります。

なお、人的資本情報のうち、女性活躍推進法などに基づく「女性管理職比率」「男性育児休業等取得率」「男女間賃金格差」に関する開示は原則として必須となります。
その他については、前章でご紹介した通り、各企業が重要性を判断して開示することになります。

非財務情報全体の開示義務化については、以下の記事を参照ください
非財務情報の開示が義務化!ERPによる対応を進めよう!

まとめ

以上、本記事では、人的資本情報開示の義務化について解説しました。基本的な考え方は「経営理念と戦略に紐づいている人的資本情報を上手にPRして、企業価値(時価総額、つまり株価)を上げましょう」というものですので、ぜひ積極的に取り組みたいテーマとなります。
また、開示事項の性質上、相当規模の非上場企業においても、人材獲得や融資獲得といった必要上、上場企業との比較に耐えうる同様の取り組みが必要になると考えられますので、早めに取り組まれるとよいでしょう。

なお、DAIKO XTECHでは人的資本情報に関する各種の指標算出機能を備えた人事給与ソリューションを複数ご用意しております。人的資本経営の各種指標について、実際の経営に活用する運用を含めてご提案が可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

主な当社取り扱い人事給与ソリューション

三上 哲章
この記事を監修した人
SMB向け業務システムのセールスエンジニアとしてキャリアをスタート。
400社以上の企業さまの販売管理・会計・給与システム導入に関与。
その後、さまざまなBtoB向けソリューションの企画・販促に携わり、SEO、MEOにも精通。
多くの企業さまの課題とその解決策をわかりやすくご紹介します。
DAIKO XTECH株式会社
ビジネスクエスト本部
マーケティング推進部
三上 哲章

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