財務会計 基礎知識

 

リース会計基準とは?改正の変更点や企業が必要な対策を解説

リース会計基準とは?改正の変更点や企業が必要な対策を解説

リース会計基準は、2027年に改正予定であり、この変更により行うべき準備がいくつか存在します。本記事では、リース会計基準の基礎知識から、2027年の改正の変更点や企業への影響、企業が行うべき準備まで網羅的に解説します。
リース会計基準について詳しく知りたい方は、ぜひお役立てください。

リース会計基準とは

リース会計基準とは、企業がリース(中長期的に商品や機器・設備など高額な固定資産を賃貸すること)を利用する場合の会計基準のことです。

日本の会計基準は、EU加盟国を中心に世界的に採用されている国際会計基準:IFRS(International Financial Reporting Standards)と、アメリカの会計基準を参考に作成されています。

リース会計基準では、リース取引は「ファイナンスリース取引」と「オペレーティングリース取引」の2種類に分けられています。

「ファイナンスリース取引」とは、リース契約に基づくリース期間において当該契約を中途解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引のことを指します。
また、リース期間に生じた修繕費などのコストは借り手側が負担する必要があります。

「オペレーティングリース取引」とは、ファイナンスリース取引以外のリース取引を指し、契約内容にもよりますが、中途解約できたりリース対象物件の修理・メンテナンスをリース会社が対応してくれたりします。

リース会計基準の変遷

日本では、リース会計基準が初めて適用されたのは1993年6月でした。
その後、リース取引に関する会計基準は3回にわたって見直し・修正が行われています。

なお2024年9月に「リースに関する会計基準」および「リースに関する会計基準の適用指針」が公表され、2027年4月以降から「新リース会計基準」が適用されます。

■2007年3月
リースを利用する企業が増加したことや、EU加盟国で上場企業に適用が義務付けられている国際会計基準:IFRSが世界的に広まっていったことなどを背景に、2007年3月30日に企業会計基準委員会(ASBJ)から「リース取引に関する会計基準」が発表されました。

これにより、所有権移転外ファイナンスリース取引の「賃貸借処理」が原則廃止となり、オンバランス処理(貸借対照表に費用の計上が必要)することが義務付けられました。

■2009年6月
金融庁から、企業会計審議会 企画調整部会の「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」が公表されました。
こちらは、2009年2月4日に公表された中間報告(案)に対して、2009年4月6日までの期間に広く意見の募集を行い、取りまとめたものとなります。

この報告では、国際的に事業活動を行っている上場企業については、連結財務諸表に「IFRSを任意適用するのが適当」という指針が出されます。

出典:金融庁ウェブサイト「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」の公表について

■2023年5月
企業会計基準委員会(ASBJ)から、「リースに関する会計基準(案)」が公表されました。この案ではすべてのリースを原則としてオンバランス処理(売買処理)することが方針として出され、前述の国際会計基準:IFRSに近い形となりました。

■2024年9月
企業会計基準委員会(ASBJ)から「企業会計基準第34号 リースに関する会計基準」が公表されました。日本基準を国際基準と足並みをそろえるために、IFRS第16号の単一の会計処理モデルを基礎としてリースに関する会計基準が設けられました。

具体的に改定された内容は、次のとおりです。

  • 用語を次のように変更
    ・リース取引 → (変更後)リース
    ・リース資産 → (変更後)使用権資産
    ・リース債務 → (変更後)リース負債
  • 借手の会計処理について、IFRS第16号と同様にすべてのリースを使用権資産にかかわる減価償却費およびリース負債にかかわる利息相当額を計上する単一の会計処理モデルに改定
  • 業種別監査委員会報告第19号 →(変更後)業種別委員会実務指針第19号
  • 業種別監査委員会報告第19号における「リース業における負債の包括ヘッジの取扱い」は、役割を終えているため削除

その他の変更箇所は、ASBJが公表した下記の資料にまとめられているので、参考にチェックしておきましょう。

参照元:【参考】企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(企業会計基準第13号等との比較)|企業会計基準委員会(ASBJ

世界基準と同様の基準を適用しているため、海外の投資家が日本の企業にも投資しやすくなるよう会計基準が改定されました。

新リース会計基準の概要(2027年予定)

2024年9月13日に公表された新リース会計基準は、2027年に適用予定です。
新リース会計基準に備えるために、次のポイントを確認しておきましょう。

  • リース会計基準はいつから変更になる?
  • リース会計基準改正の目的は?
  • 改正による現行基準との変更点

リース会計基準はいつから変更になる?

新リース会計基準は、2027年4月以降に開始される事業年度から適用されます。
2024年9月に公表されましたが、適用まで約2年7カ月あるため、改正点を確認しておきましょう。

リース会計基準改正の目的は?

2027年にリース会計基準が改正される目的は、日本の会計基準を国際会計基準:IFRSやアメリカの会計基準に合わせるためです。

海外の基準に合わせる理由ですが、例えば今の日本企業の決算書を海外投資家が読んだとしても、会計基準が違う部分があり分析が難しくなるという課題が考えられます。
世界的にも採用されているそれらの基準に合わせれば、海外の投資家が日本の企業にも投資しやすくなります

改正による現行基準との変更点

リース会計基準の改正による主な変更点は、以下の3点です。

①オペレーティングリースについても、資産・負債の計上が求められる
オペレーティングリースの対象物品は、これまで「賃借料」「リース料」としてリース料の支払いごとに費用計上するだけでした。しかし、改正後は賃貸借契約やリース契約を使用権資産、リース債務として貸借対照表に計上することになります。

②ファイナンスリース取引とオペレーティングリース取引が区別されなくなる
これにより、ファイナンスリース取引・オペレーティング取引、どちらも原則としてオンバランスでの会計処理に統一されるため、これまでのような区別がなくなります。

③リース期間の算出方法が変わる
今までは契約書に記載がされた契約期間を対象とし、後から期間を変更できなかったものの、改正後は延長や解約を踏まえたうえでリース期間を測定することができるようになります。これにより、会計処理で考慮すべき項目が多くなります。

新リース会計基準による具体的な会計処理方法

新リース会計基準では、リース取引開始時に資産計上の仕訳をし、リース期間を耐用年数とみなして減価償却を行います。

借方

貸方

使用権資産

●●

リース負債

××

使用権資産とは、リース期間中に使用する権利を指し、リース負債は使用権に対して支払った権利を意味します。

使用権資産の取得価額は、リース期間中に支払った総額だけでなく、リース開始日までに支払った金額も合わせて計上しましょう。

またリース負債は、リース期間中に支払った総額ではなく、リース料に含まれている利息相当額の合理的見積額を控除した現在価値を計上してください。

現在価値は、将来価値を将来受け取れる価額を現在の価額に計算し直した金額で割って算出できます。

現在価値現=将来価値÷(1+金利)^n

※「^」は乗数、「n」は年数を表します。

例えば、1年で100万円(後払い・付随費用なし)のリース料を割引率10%で3年間支払う場合、リース負債を次のように計算できます。

  • 1年後に受け取る100万円の現在価値=100÷(1+0.1)^1≒90.9万円
  • 2年後に受け取る100万円の現在価値=100÷(1+0.1)^2≒82.6万円
  • 3年後に受け取る100万円の現在価値=100÷(1+0.1)^3≒75.1万円
  • 合計=247.6万円

上記の場合は、リース取引開始時の会計処理を次のように計上しましょう。

借方

貸方

使用権資産

2,476,000

リース負債

2,476,000

なお、毎月のリース料を支払う際の会計処理は次のとおりです。

借方

貸方

リース負債

◇◇

現金預金

▽▽

支払利息

▲▲

使用権資産の償却を計上する際には、資産が持つ耐用年数とリース期間の短い方が適用されます。

借方

貸方

減価償却費

××

使用権資産

●●

リース会計基準の改正による企業への影響

リース会計基準の改正により、特に影響が大きいと考えられるのは、以下2点です。

経費処理の負担増加

改正後は、契約時点での使用権資産・リース資産をバランスシートに計上することになります。リース料を支払うたびに「減価償却費」「支払利息」を区別して処理することになるため、従来と比べて仕訳パターンが膨らみます。

目安としては、仕訳パターンが改正前の3~4倍程度に増大することが考えられるので、経理担当者が従来通り処理をしきれるかどうかの検討が必要です。リースの利用数や、利用部門が多くなるほど企業の負担は大きくなり、ミスも発生しやすくなります。

こうした影響から、経費処理が煩雑化しても対応工数が大きくなりすぎないよう、従来以上に財務管理・会計システムの活用がおすすめです。

各種税法への対応

リース会計基準が改正された場合、改正内容に合わせて各種税法も変わる可能性がありますが、万が一各酒税法が改正されない場合、新しいリース会計基準と各種税法の差分について対応を行う必要が出てきます。

自己資本比率の低下

改正後は、従来計上しなかった資産・負債が追加されることになるため、総資産が増えても純資産は変動しない、というケースが発生し自己資本比率の低下につながることが考えられます。

こういった企業への影響を最小限にとどめるために、改正前に準備を整えておくとよいでしょう。では、具体的にどのような準備を行うべきか、次章で説明します。

リース会計基準の改正に向けて行うべき準備

リース会計基準の改正に向けて、企業が準備するべきことは大きく4つのステップに分けられます。

①影響分析

まずは、改正によって影響を受ける範囲の洗い出しです。
改正後、新たに資産・負債が計上される可能性がある賃貸借契約・リース契約の契約書を確認し、影響対象を整理しましょう。
前述の通り、改正後は原則としてすべてのリース取引がオンバランスでの会計処理に統一されます。その場合、経理処理にどの程度の影響が出るのか見積もっておくことも重要です。
また、不動産賃貸借取引もリース取引としてみなされる可能性もあります。

②対応方針の検討

改正後、新しいリース会計基準が適用されたら社内でどのように対応をしていくのか方針を決めておかねばなりません。

前述の通り、仕訳パターンが改正前の3~4倍程度に増大することが考えられるので、経理担当者が従来通り処理をしきれるかどうか、難しいのであれば人員増強や業務フローの見直しを行うことも考えなければなりません。
煩雑化する経理処理を少しでも抑えるべく、改正後の処理に適応できる財務管理・会計システムの導入を検討することも手段の1つとして挙げられます。

③関係各所との調整・規定改訂

対応方針の最終決定・運用開始に向けて、社内の関係者や経営・役員陣に調整・報告を行う必要が出てきます。
また、財務管理・会計システムを導入する場合はシステムの提供企業の選定やその企業と連携して導入フロー・スケジュールの調整を進めるなど、各所との調整を行いましょう。

④業務設計・システム導入

改正後は具体的にどのようにして経理処理を行っていくのか、対応方針を踏まえた新しい業務設計をしていきます。
新たに財務管理・会計システムなどの導入を進める場合は、システムの提供企業と運用に向けての説明・オンボーディングなどを進め、システム導入を実施します。

改正に向けて、早めの準備・検討がおすすめ

ここまでで改正に向けての対応準備について説明してきましたが、影響範囲の特定、人員増強・業務フローの再設計、対応するシステムの導入など、いずれの準備内容も一定の時間を要する内容ばかりです。

また、関係各所との方針の調整や、経営・役員陣に対して稟議・承認を得たりすることを考えると、改正に向けての対応は一定の中長期プロジェクトとなると捉え、早めに対応準備を進めておくことをおすすめします。システムを導入する場合は、情報セキュリティ部門やセキュリティ部門の審査にも時間を要するため、より一層早めの着手が重要です。

準備内容のでも特に新しい業務設計・システム導入には時間を要するため、信頼できるパートナー企業をみつけて相談しながら、やるべきことの洗い出し・どう進めるかなどを早めに組み立てていくことをおすすめします。

当社でも、改正後の新リース会計基準に適応した財務管理・会計システムのご提供と、その導入サポートが可能です。ご相談いただけましたら、各社のご状況に合わせて最適なシステム・サービスをご提案しますので、ぜひ以下を参考にご相談くださいませ。

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寺本 仁
この記事を監修した人
会計・人事給与システムのソフト開発会社にてキャリアをスタート。
システム導入支援に従事後、営業部門に転じ、システム活用事例や課題解決事例に立脚した顧客提案を推進。
DAIKO XTECHに入社後は、勤怠管理や連結会計、経理部門のDX化など、ERPソリューション全般に精通したスペシャリストとして活躍中。
DAIKO XTECH株式会社
ビジネスクエスト本部
インダストリー推進部
業務ソリューション課
寺本 仁

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