毎年行われる年末調整や確定申告により所得税の過払いなど、支払いすぎた税金が還付金として返金されるため、適切な手続きを踏む必要があります。
年末調整や確定申告で還付金を受け取るために、過払い金を返金してもらう方法を確認しておきましょう。
本記事では、年末調整や確定申告で過払いした所得税を受け取る方法を詳しく解説します。
所得税の定額減税や過払い金の計算方法をあわせて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。
ページコンテンツ
還付金とは?所得税が返金される仕組み
還付金とは、納め過ぎた所得税額があった場合に、年末調整や確定申告のタイミングで申告することで、地方公共団体から、支払い過ぎた金額分が還付金として返還(還付)される税額のことです。年末調整や確定申告までに申請書類を提出し、特定の条件を満たすことで還付されます。
必ず還付金が受け取れるとは限らない
還付金を受け取ることができる前提条件として、その年に支払った税額が本来支払うべき税額を上回っている必要があります。そのため、還付金は必ずしも受け取れる訳ではなく、納税額が不足していた場合には追加徴収が発生します。
企業に勤める従業員の場合、不足している納税額は12月末の年末調整で自動的に給与から控除され清算されます。一方で、個人事業主をはじめ、2月中旬から3月中旬に確定申告を行う人の場合は、不足している税額分を3月15日までに自分で納付する必要があります。
年末調整で還付金を受け取る場合
年末調整とは、企業が従業員の代わりに支払った1年間の税金と、本来の納税額支払額の差額を調整する作業です。
年末調整は、給与収入がある方が対象です。
具体的には、次のいずれかに当てはまる方は、年末調整の対象者に該当します。
- 1年間を通じて勤務している方
- 年の途中で就職し、年末まで勤務している方
- 年の途中で海外転勤などにより非居住者となった方
- 年の途中で死亡や身体障がいなどの理由により退職した方
- 12月中の給与支払いを受けた後に退職した方
- 年中に支払いを受ける給与の総額が103万円以下の非正規雇用労働者
なお、2024年分の年末調整から下記の変更点が追加されました。
- 定額減税の適用
- 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書に定額減税に係る記載欄を追加
- 給与所得者の扶養控除等申告書の提出が簡略化
特に定額減税については自身の所得税に大きく関わる変更となるため、内容をよく理解し、申告漏れの無いよう注意しましょう。
企業から給与を支払われている場合、毎月の給与やボーナスの支払時に、源泉徴収により税金が差し引かれています。しかし、所得税が確定する12月末までは個人の事情を反映した税金の控除額を正しく把握できないため、毎月余分な税金が差し引かれてしまうことがあります。そのため、年末調整の際に従業員から徴収すべき正しい税金をまとめて計算しなおし、余分に支払った税金を還付します。
しかし、年末調整は企業で手続きすれば基本的に問題ないため、従業員が自主的に行う手続きはありません。個人事業主の場合は、年末調整ではなく確定申告によって税務処理を行うケースが多いですが、給与所得がある場合は対象の企業を通して年末調整を行います。
還付金は、企業の年末調整完了のタイミングで受け取ります。12月中が多く、期日までに申告している企業であれば、遅くとも翌年の1月か2月の給与には反映されます。
年末調整に関する記事はこちらからご覧ください。

確定申告をすれば還付金をもらえる場合
確定申告をすれば還付金がもらえるケースは、主に次の条件に当てはまる方が対象です。
- 個人事業主や、給与の年間収入金額が2,000万円を超える方
- 雑損控除の還付金がある場合
- 寄付金控除の還付金がある場合
- 医療費控除の還付金がある場合
- 住宅借入特別控除の還付金がある場合
- 年末調整を行わず退職した場合
個人事業主や給与の年間収入金額が2,000万円を超える場合は、年末調整ではなく確定申告で税務処理を行う必要があります。
その他の条件について詳しく解説するため、還付金の返金対象に当てはまるかチェックしておきましょう。
雑損控除の還付金がある場合
雑損控除の還付金がある場合は、確定申告を実施しましょう。
雑損控除とは、災害または盗難もしくは横領によって資産が損失した場合の所得控除です。
還付金の対象となる損害の原因は、次の通りです。
- 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
- 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
- 害虫などの生物による異常な災害
- 盗難
- 横領
引用元:No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)|国税庁
なお、詐欺や恐喝の場合は雑損控除は受けられません。
雑損控除の対象となる資産の条件は、次のいずれかに当てはまる場合です。
- 「納税者」もしくは「納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で総所得金額が48万円以下」の方が所有する資産
- 棚卸資産もしくは事業用固定資産等または「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しない資産
つまり、別荘など趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で保有する不動産や貴金属(製品)、書画、骨董などは雑損控除の対象外です。
寄付金控除の還付金がある場合
寄付金控除は、年末調整で処理できないため、各艇申告で還付金を請求します。
寄付金控除とは、ふるさと納税などによって納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対して「特定寄付金」を支払った場合に受けられる所得控除です。
寄付金控除の還付金を計算する方法は、次の通りです。
次の1.または2.のいずれか金額が低い金額-2,000円=寄付金控除額
- その年に支出した特定寄附金の額の合計額
- その年の総所得金額等の40%相当額
参照元:No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
医療費控除の還付金がある場合
医療費控除の還付金がある場合は、確定申告で返金手続きができます。
医療費控除とは、病院や医療機関に年間で支払った医療費の合計額が、10万円を超える場合に還付金を受けられる所得控除です。
10万円を超えた医療費分に控除を受けられるため、確定申告で納税者と生計を一にする配偶者や親族が支払った年間の医療費を申告します。
確定申告の対象年の総所得金額が200万円未満の場合は、総所得金額の5%を超えた医療費分が控除対象です。
参照元:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
住宅借入特別控除の還付金がある場合
住宅借入特別控除の還付金がある場合は、確定申告で返金手続きを行いましょう。
住宅借入特別控除とは、住宅ローンなどを利用してマイホームの新築や取得または増改築を行った場合に、所得税が控除される制度です。
控除を受ける条件として、次の要件をすべて満たす必要があります。
- 住宅の新築などの日から6カ月以内に居住している
- 特別控除を受ける年分の12月31日まで継続して居住している
- 次のいずれかに該当している
- 住宅床面積が50㎡以上であり、床面積の2分の1以上を居住用として使用している
もしくは特別控除を受ける年分の合計所得金額が3,000万円以下である - 住宅床面積が40㎡以上50㎡未満であり、床面積の2分の1以上を居住用として使用している
もしくは特別控除を受ける年分の合計所得金額が1,000万円以下である
- 住宅床面積が50㎡以上であり、床面積の2分の1以上を居住用として使用している
- ローンの返済方法が10年以上にわたり分割している
- 居住年およびその前2年の計3年間に譲渡所得の課税の特例の適用を受けていない
- 居住年の翌年以後3年以内に居住した住宅以外の一定の資産を譲渡し、譲渡所得の課税の特例を受けていない
- 納税者が取得した住宅の取得に関わるローンである
- 贈与による住宅の取得でない
参照元:No.1212 一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
年末調整を行わず退職した場合
基本的に企業に所属していれば、企業から支払われる所得からは全て所得税が差し引かれています。
しかしながら、年末調整を行わずに退職した場合は、自分で確定申告を行わなければなりません。
源泉徴収によって控除されていた所得税は、厳密な所得税額とは異なる場合があります。そのため、年末調整を行わずに退職した場合は還付金を受け取れる可能性があります。
所得税の定額減税を行うには
所得税の定額減税を行うには、給与所得者と個人事業主の場合で手続きが異なります。
具体的にどのような手続きで所得税の定額減税を行うのか、給与所得者と個人事業主それぞれのケースを確認しておきましょう。
給与所得者の場合
給与所得者の場合は、事業主が定額減税の手続きを実施するため、個人での手続きは必要ありません。
事業主である企業が、給与支払いどきに「月次減税事務」を行い、年末調整どきに「年調減税事務」を実施することで、定額減税の控除額を清算します。
給与所得者は、特別な手続きをしなくても事業主が正しく減税処理を行っていれば、源泉徴収される所得税額から定額減税の控除額が差し引かれます。
個人事業主の場合
個人事業主の場合は、自身で確定申告を行って定額減税の申請をしなければなりません。
個人事業主は、確定申告どきに定額減税の控除を受け、申告した所得税額から定額減税の控除額が差し引かれます。
予定納税がある場合は別途、予定納税額から定額減税の控除額が差し引かれますが、控除しきれない場合は第1期分だけでなく第2期分の予定納税額から控除を受けます。
還付金の計算方法
毎月概算で納めている税が、年末調整で確定した1年間に納めるべき所得税よりも多かった場合、還付金が受け取れます。年末調整で確定した1年間に納めるべき所得税は、「年調年税額」といい、以下の式で算出されます。
年調年税額=算出年税額-特別控除額
※算出年税額は、国税庁の該当年の「年末調整のための算出所得税額の速算表」をご確認ください。
年調年税額が、支払った納税額とどれくらいの差分があるのか、確認してみましょう。
実際に受け取れる還付金の計算は、以下の式で算出されます。
①その年の給与収入を計算
②給与所得を計算(①から給与所得控除を差し引く)
③課税所得を計算(②から所得控除を差し引く)
④課税所得から所得税を確定
⑤還付金額を計算(④の所得税額と源泉徴収税額の差分)
還付申告の必要書類
還付申告は、確定申告の際に用いる確定申告書に内包されています。そのため、確定申告書に必要事項を記載して、必要書類を添付したものを提出します。なお、確定申告書は税務署や国税庁のWebサイトから入手・ダウンロードできます。
確定申告に共通して必要なもの | 確定申告書 |
本人確認書類 | |
銀行口座の情報がわかるもの | |
所得を証明できるもの | |
所得控除や税額控除の適用を証明できるもの | |
印鑑 | |
e-taxのID・パスワードもしくはマイナンバーカード(電子申告の場合) | |
会社員の確定申告に必要なもの | 雑損控除を受ける場合に必要なもの |
医療費控除を受ける場合に必要なもの | |
寄付金控除を受ける場合に必要なもの | |
住宅借入金特別控除を受ける場合に必要なもの | |
2か所以上から給与を受け取っている場合に必要なもの | |
20万円以上の副業所得がある人が確定申告に必要なもの | 青色申告決算書(青色申告の場合) |
収支内訳書(白色申告) |
還付申告の手順
還付金を受け取る際の手順は以下のとおりです。
- 確定申告書の記載項目にある「還付される税金の受取場所」の欄に「銀行名」「支店名」「口座番号」を記入
(公金受取口座の登録が済んでいる場合は、「公金受取口座の利用」にチェックをいれるだけでよい) - 確定申告書の必要箇所にすべての記入後、自身の納税地(居住地等)を管轄する税務署へ提出
その後、国税庁の方で処理が完了次第、確定申告書に記載した銀行口座宛てに還付金が振り込まれます。
還付金の受取・確認方法
年末調整や確定申告が完了した後、還付金はどのように受け取れるのでしょうか。還付金の受取方法や、受取金額を確認しておきましょう。
還付金の受取方法
還付金の受取方法は、預金口座に振り込まれる方法と、ゆうちょ銀行または郵便局の窓口で現金で受け取る方法があります。
企業の年末調整で発生した還付金は、手数料と手間を減らすために給与と一緒に振り込まれることが一般的です。しかし、これも企業によって対応が異なる可能性もあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
確定申告を行う場合、還付金の受取方法は自分で選ぶことができます。ただし、口座振込の場合は、申請者の名義で登録した口座を指定する必要があるため注意しましょう。
金額の確認方法
会社員の場合、1~12月の給与明細で給与・ボーナスから差し引かれた所得税の合計金額を算定し、その金額から源泉徴収票に記載された税額を引いた金額が、その年に還付される金額です。
企業によっては、給与明細の中に「年末調整還付」や「所得税還付」などと、控除される所得税額を分かりやすく示した項目がある場合もあります。また12月の給与振り込みで還付金が戻らなかった場合でも、給与明細と源泉徴収票から還付金額を確認することが可能です。
還付金を受け取るまでのスケジュール
確定申告してから還付金を受け取るまでのスケジュールは、1カ月〜1カ月半ほどが一般的です。
確定申告してから1カ月〜1カ月半ほどで還付金が振り込まれるため、毎年2月中旬から3月中旬に申請した場合は3月中旬から4月末ほどに返金されます。
ただし税務署の処理が終わってから、還付金の振込手続きが行われるため、返金スケジュールは申請時期によって変わります。
申請時期から還付金が返金されるスケジュールの目安は、次の通りです。
還付申告時期/還付申告方法別の返金スケジュール目安 |
直接税務署に提出する場合 |
税務署に郵送で提出する場合 |
e-Taxによる電子申告をした場合 |
1月上旬に還付申告した場合 |
2月上旬から2月中旬 |
1月中旬から下旬 |
|
2月中旬(確定申告開始時期)に還付申告した場合 |
3月中旬から3月下旬 |
3月上旬から3月中旬 |
|
3月中旬(確定申告終了時期)に還付申告した場合 |
4月中旬から4月下旬 |
4月上旬から4月中旬 |
e-Taxで電子申告した場合は、還付金が返金されるスピード感が早く、還付金の処理状況をリアルタイムで確認できます。
還付金受取時の注意点とは?
最後に、還付金を受け取る際の注意点について、解説していきます。
振り込まれる期間が長くなる場合も
企業が従業員の代わりに申請を行ってくれる年末調整の場合は、還付金の振り込みのタイミングが遅れることはほとんどありません。しかし、確定申告を行う場合は、個人が必要書類を集めたうえで計算を行うため、誤った記載情報のまま確定申告をしてしまう可能性もあります。
もし、申請した確定申告の書類に不備があった場合、振り込まれる期間は長くなります。
本人名義の口座が必要
還付金を振込みで受け取るには、本人名義の口座が必要です。口座の名義が屋号や店名の場合、振込みで還付金を受け取ることはできなくなります。名義に不備があった場合は、郵便局の窓口で受け取るといった対応が必要になりますので、注意しましょう。
所得税の還付金に関するよくある質問
所得税の還付金に関するよくある質問として、次の3点をご紹介します。
- 還付金の受取に口座振込み希望する場合の注意点はありますか
- 還付金の受取にはネットバンクを指定できますか
- 還付金の申請に時効はありますか
いずれも国税庁ホームページに掲載されている「確定申告期に多いお問合せ事項Q&A」から抜粋しているため、多くの方々が疑問に感じやすい質問例です。
所得税の還付金申告を正しく実施するために、それぞれの質問に対する解答を確認しておきましょう。
還付金の受取に口座振込み希望する場合の注意点はありますか
還付金の受取に口座振り込み希望する場合は、確定申告書の「還付される税金の受取場所」に、本人の取引している振込先の金融機関名、預貯金の種別及び口座番号を正確に記載しましょう。
また、 預貯金口座の名義に事務所名などの名称(屋号)が含まれる場合は、振込みできない場合があるため、納税者の氏名のみの口座を用意してください。
納税管理人の指定をしている場合は、納税管理人の名義の口座を記載しましょう。
振込口座を指定する場合は、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合、漁業協同組合の預金口座が対象です。
一部のインターネット専用銀行は、振込できない可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
ゆうちょ銀行を振込口座に指定する場合は、貯金通帳の口座に記載されている5桁の「記号」と2から8桁の「番号」をつなげた7から13桁の記号番号のみを正確に記載してください。
再発行番号にある「記号」と「番号」の間に表示される「-2」などの枝番は記載しないよう注意しましょう。
還付金の申請に時効はありますか
国税の消滅時効制度は、徴収権の消滅時効(国税通則法72条)と還付金の消滅時効(国税通則法74条)によって規定されています。
時効期間は、いずれも5年間であり、還付請求の起算日は翌年1月1日です。
つまり令和6年分の所得税を還付請求できる時効は、令和7年1月1日から令和12年12月31日までであり、時効期間を超えてからの還付請求は認められません。
年末調整や確定申告をきちんと行い還付金を受け取ろう
年末調整をきちんと行い還付金を受け取ろう
年末調整に必要な書類を提出し忘れてしまうと、企業が年末調整の手続きを進めることができません。その場合、還付金も戻ってこないため、年末調整で必要な書類の記入・提出は早めに行いましょう。特に各種控除がある場合は書類の手配などに時間がかかることもあるため、注意が必要です。
また、確定申告の対象となる方は、その準備も早めに行いましょう。
手間に感じることもあるかもしれませんが、払い過ぎてしまった税金が還付される重要な手続きであるため、必ず提出するようにしましょう。