
モノづくり企業において、原価計算は利益を確保するために欠かせません。
活動基準原価計算(ABC)とは、アメリカで提唱された原価管理方法で、製造業でも多く取り入れられています。
従来の計算方法では捉えづらかった間接費について、より実態に近いコスト計算が可能です。
本記事では、活動基準原価計算(ABC)について概要や計算方法、簡単な計算例などをご紹介します。
また、メリットやデメリット、事例なども併せて解説しますので、適切な間接費の把握や原価管理に役立てましょう。

目次
活動基準原価計算(ABC)の概要

企業の原価計算手法で、現在注目を集めているのが活動基準原価計算(ABC)です。
1980年代にアメリカで提唱された原価計算手法です。
従来のように単純な配賦基準に基づいて間接費を分配するのではなく、実際の活動に基づいてコストを配分する点に特徴があります。
製造業だけでなく、サービス業や医療分野にまで応用が広がっており、経営の意思決定をより容易にする手段として注目されています。
本章では、活動基準原価計算の基本的な考え方から、注目される背景、従来の配賦法との違い、さらには関連概念である活動基準管理(ABM)まで、概要を解説します。
活動基準原価計算とは?
活動基準原価計算は、Activity Based Costingの略で、「ABC」とも呼ばれます。
製品やサービスに発生する原価を、実際の活動に基づいて正確に把握する原価計算手法です。
どのように結びついて発生したのかがわかりにくい間接費を、それぞれの製品やサービスのコストとしてできるだけ正確に配賦し、生産にかかるコストを正確に把握しようとする考え方です。
具体的には、まず活動を明確化し、活動をまとめた「コストプール」を設定します。
さらに、それぞれの活動の要因である「コストドライバー」に基づいて、間接費を製品やサービスに配分します。
活動基準原価計算を行う目的
活動基準原価計算を導入する主な目的は、製品別・サービス別に原価を正確に把握するためです。
特に間接費が増大している現代のモノづくりでは、従来の配賦方法では誤差が大きくなってしまいます。
原価を正確に把握できれば、以下のような効果が期待できます。
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以上のように活動基準原価計算は、経営の意思決定を支える戦略的な会計手法としても重視されています。
活動基準原価計算が注目される背景
活動基準原価計算が注目されるようになった背景には、以下のような要因があります。
- 多品種少量生産の拡大
- 競争環境の激化
- 自動化やIT化の急速な発展
以降で詳しく解説します。
多品種少量生産の拡大
まず、活動基準原価計算が注目されるようになった背景には、多品種少量生産の拡大が関係しています。
従来の大量生産を行っていた頃には、製品ごとの工程の作業内容の差を比較する必要があまりなく、時間基準で配賦しても大きな問題がありませんでした。
しかし、需要が多様化し多品種少量生産が拡大した現在では、製品ごとのコスト構造が大きく異なります。
従来型の配賦法では問題が生じ、活動ごとの原価計算を行う必要が出てきた背景があります。
グローバル競争の激化
また、製造業での競争が激化したことも背景として挙げられます。
グローバル競争によりコスト削減が命題となり、わずかなコストの差が利益や売上に直結するようになりました。
したがって、現在ではグローバル競争に勝ち抜くためには正確な原価管理が必要不可欠となり、活動基準原価計算が注目されているのです。
自動化やIT化の急速な発展
自動化やIT化が急速に発展したことも原価計算を再考するきっかけとなりました。
具体的には、設備の保守・点検、物流、情報システムなど、間接費が多様化して原価を圧迫しています。
従来の単純な配賦では複雑なコスト構造を正しく反映できないため、活動を基準とした配分が求められるようになりました。
伝統的配賦法との違い
伝統的な配賦法では、間接費を「労務時間」や「設備稼働時間」といった単一の基準で製品に配賦します。
一方で、活動基準原価計算は、複数のコストドライバー(コスト発生要因)を用いて配賦する点で異なります。
従来は大量生産であることを前提に「直接作業時間」を基準に配賦していたものを、活動基準原価計算ではリソースドライバー(資源の原価を把握)とアクティビティドライバー(活動自体の原価を把握)の主に2種類のコストドライバー要因を用いて間接費を配分します。
リソースドライバーとアクティビティドライバーを表に表すと以下の通りです。
種類 |
概要 |
具体例 |
リソースドライバー |
活動時に使用した資源にかかるコストを、各活動ごとに割り当てを行う |
電気代を稼働時間ごとに割り振る |
アクティビティドライバー |
製品やサービスが使用した活動を、製品やサービスごとに割り当てる |
人件費を工程ごと、かつ生産数量ごとに割り当てる |
多品種少量生産が多い現在では、伝統的配賦法よりも活動基準原価計算の方がより正確な原価計算が可能です。
活動基準管理(ABM)との違い
次に、活動基準管理(Activity Based Management、ABM)と活動基準原価計算(ABC)の違いについて解説します。
両者の違いを整理すると以下の通りです。
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活動基準原価計算(ABC)は、あくまで現状の原価構造を可視化するための技術で、活動基準原価計算で得た情報を活用して経営改善を図るのが活動基準管理(ABM)です。
したがって、両者は全く異なるものではなく、密接な関連性があることを理解しておきましょう。
活動基準原価計算(ABC)の計算方法

活動基準原価計算を理解するためには、実際の計算方法の理解が重要です。
本章では、活動基準原価計算について、以下の4つのステップに沿って解説します。
- 活動の洗い出しとコストプールの整理
- コストドライバーの設定とデータ収集
- 間接費の配賦
- 情報活用と改善
以下で詳しく解説します。
活動の洗い出しとコストプールの整理
最初のステップでは、企業活動を細分化して「どの活動にコストが発生しているのか」を明確にしたうえで、コストプールの整理を行います。
モノづくりでは「設計」「調達」「製造」「検査」「出荷」などの工程ごとに活動を区分します。
さらに、以下のように次の4層に分けて活動を分解します。
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区分した後に、類似した性質を持つ活動をまとめ、費用の集まりである「コストプール」を作成します。
活動の性質ごとにまとめることでコスト配分の単位が明確化するため、コストプールの適切な設定が活動基準原価計算を行う上で重要な工程です。
コストドライバーの設定とデータ収集
次に、各コストプールに対してコストドライバーを設定します。
コストドライバーとは、活動が発生する原因や要因を表す指標です。
例えば以下のようにコストドライバーの設定を行います。
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なお、データ収集にはERPシステムや生産管理システムを活用するのが一般的です。
データの粒度が細かいほど配賦の精度は高まります。
間接費の配賦
コストプールとコストドライバーが決まったら、実際に間接費を製品やサービスに割り当てます。
例えば、「検査コストプール」に1,000万円が集計された場合を考えます。
コストドライバーが「検査回数(2,000回)」だとすると、1回あたり5,000円となり、各製品の検査回数に応じて配賦されます。
情報活用と改善
算出された結果は、単に原価を知るためだけではなく、コスト削減や改善に活用します。
例えば、検査活動に多くのコストがかかっているとわかれば、不良率との比較が重要です。
検査のたびに不良品が出ているような状態であれば、製造工程もしくは設計自体に問題がある可能性が高いため、分析と改善を行います。
もし検査でほとんど不良品が出ていないにもかかわらず検査回数が多い場合には、検査の頻度を下げたり、抜き取り検査や無試験検査、間接検査など検査方法の見直しも検討します。
また、一度だけ活動基準原価計算を行うのではなく、継続的に運用するのも重要です。
定期的にデータの取得と計算を行い、改善サイクルを回すことでより正確なコスト構造の分析が可能です。
以上のように、活動基準原価計算はコスト削減やプロセス改善へとつながります。
活動基準原価計算(ABC)の具体的な計算例

理論を学んだだけでは、活動基準原価計算の有効性を実感しづらいため、本章では基本的な計算例から応用例までをご紹介します。
具体的な数値を用いたシミュレーションを通じて、活動基準原価計算の実践的なイメージをつかみましょう。
基本的な計算例
まず、基本的な活動基準原価計算の式は以下の通りです。
【活動基準原価計算の式】
製品に配賦される活動原価 = 配賦基準の活動コスト × 製品活動量 |
ある工場で製品全体に対して以下のような活動(検査)があると仮定します。
コストドライバー | コストプール | |
検査1 | 10回 | 50万円 |
検査2 | 6回 | 30万円 |
製品Aが検査1を1回、検査2を5回行った場合、配賦されるコストは以下の通りです。
- 検査1:50万円 × 5回 / 10回 = 5万円
- 検査2:30万円 × 5回 / 6回 = 25万円
合計 = 30万円
以上のように、従来の計算方法であれば単純に労務時間で配賦されていた費用が、活動基準原価計算を用いることで活動の実態に応じて割り振られます。
実務的な計算例
基本的な計算事例では、わかりやすいように一つの製品に焦点を当てましたが、実際には複数製品を作っていると計算は複雑です。
製品B |
製品C |
コストプール |
|
検査1 |
2回 |
3回 |
100万円 |
検査2 |
6回 |
4回 |
200万円 |
【製品Bにかかった活動原価】
検査1
100万円 × 2回 / 5回 = 40万円
検査2
200万円 × 6回 / 10回 = 120万円
合計 = 160万円
【製品Cにかかった活動原価】
検査1
100万円 × 3回 / 5回 = 60万円
検査2
200万円 × 4回 / 10回 = 80万円
合計 = 140万円
実際には、以上のように製品別の原価計算を行います。
従来の計算方法であれば、製品を生産する上でかかった作業時間や設備の稼働時間を元に配賦されていましたが、活動基準原価計算を用いることで検査に掛かったコストを可視化し、利益をより正確に算出できます。
活動基準原価計算(ABC)のメリット

計算例を理解したところで、本章では活動基準原価計算のメリットについて、以下の3点に沿って解説します。
- 価値の低い活動を明確化できる
- 適正価格を設定できる
- コストのムダを発見できる
以降で詳しく解説します。
価値の低い活動を明確化できる
活動基準原価計算では、価値の低い活動を明確化できるメリットがあります。
活動単位での原価を明確化できるため、収益と活動を比較して、採算の取れていない製品やサービスをあぶり出し、削減や業務改善を行うべき対象製品を明確化でき、経営判断にも役立ちます。
例えば、過剰な検査工程や必要以上の承認作業などは、コストの割に付加価値が少ないことがわかります。
削減できれば、利益率の向上だけでなく業務効率化にもつながります。
製造部門に限らず、間接部門へも適用できれば、営業部門やサービス部門での顧客対応業務や、バックオフィス業務の効率化にも貢献できます。
適正価格を設定できる
正確な原価が把握できれば、製品やサービスに対する適正な販売価格を設定できます。
従来の方法では利益が出ていると思っていたものの、活動基準原価計算でより正確な原価を算出したところ、思ったほど利益がでていなかったといったケースも珍しくありません。
例えば、計算のところで述べたように、従来は単純に「作業時間」「設備稼働時間」などで計算されていた間接費を、活動基準原価計算を用いることで検査の回数といったコストドライバーを考慮すれば、より正確な利益計算が可能です。
したがって、活動基準原価計算を行えばより正確な原価計算を行えることで、利益が出るように適正価格を設定できるメリットがあります。
コストのムダを発見できる
活動基準原価計算を用いることで、改善活動における優先順位を明確にできるメリットもあります。
コスト削減のための改善活動において、活動基準原価計算により物流コストが特定の顧客に偏っていることがわかれば、配送方法を見直すことで利益率が向上します。
以上のように活動基準原価計算では、製造工程単位だけではなく活動単位でのコスト分析を行うことで、見えていなかったコストのムダを発見できるメリットがあります。
活動基準原価計算(ABC)のデメリット

一方で、活動基準原価計算の導入にはデメリットも存在します。
デメリットを理解せずに導入すると、期待した成果が得られないリスクがあるため、しっかり理解しておく必要があります。
具体的には、以下の3つのデメリットが挙げられます。
- データ収集や蓄積に時間がかかる
- 単一の経営判断材料としてはリスクが高い
- システムなどの導入コストが掛かる
以降で詳しく解説します。
データ収集や蓄積に時間がかかる
活動基準原価計算の場合には、工程ごとの所要時間や作業回数をそれぞれ収集、蓄積を行わなければなりません。
したがって、データ収集や蓄積に時間を必要とするのが活動基準原価計算のデメリットの一つです。
また、工程ごとにデータ収集をする場合にも、活動をどのように切り分けるかを考慮しなければなりません。
細分化するほど精度が上がりますが、データ収集の負担は増えます。
実際のデータ収集は作業現場で行う必要があるため、手作業で行う場合にはさらに現場の作業者の負担が増大します。
データ収集は継続的に行う必要があり、あまりに細分化しすぎるとデータ収集や蓄積のための記録時間自体がムダなコストとなり本末転倒になってしまいかねません。
単一の経営判断材料としてはリスクが高い
活動基準原価計算は、経営判断材料としてはリスクが高い場合があります。
従来の伝統的配賦法よりも間接費算出における精度が高いのはメリットではあるものの、間接費は流動的であり、活動基準原価計算で算出されたものもあくまで仮定であるため、正確に把握するのは難しい点に注意が必要です。
極端な例では、サンプル品は利益を全く生まず、間接費も掛かるため、活動基準原価計算の結果としては不要と判断されかねません。
しかし、サンプル品の役割は販売促進や性能の保証といった役割があり、コストだけで判断してはいけません。
したがって、活動基準原価計算で算出された結果だけで経営判断材料とするにはリスクが伴います。
経営判断の参考にするのは効果的ですが、あくまで一つの参考として複合的な経営判断を行う必要があります。
システムなどの導入コストが掛かる
また、本格的に活動基準原価計算を導入する場合にはシステムなどの導入コストが掛かってしまう点がデメリットでもあります。
具体的にはERPやBIシステムなどの導入が挙げられます。
初期投資や運用コストが負担となってしまうことはデメリットではあるものの、手作業でのデータ収集や蓄積の手間や人的コスト、ヒューマンエラーによる計算ミスによる弊害などを考慮して費用対効果を検討しましょう。
また、ERPも種類によってコストが異なるため、自社の需要に合ったものを導入すれば導入コストが比較的抑えられる場合もあります。
なお、ERPについては以下の記事でも詳しく解説しております。
活動基準原価計算(ABC)の事例

次に、活動基準原価計算を行い、間接費の計算を効率化している事例をご紹介します。
活動基準原価計算を業務の効率化や経営の透明化に役立ている事例
大阪市水道局では、事業運営の説明責任を果たし、経営の透明度の向上を図るために活動基準原価計算を行い、結果を公表しています。
具体的には、以下の手順でコストの分類を行っています。
- 水道事業における「活動」を分類する
- 各活動に直接帰属する費用を把握する
- 直接帰属する費用以外の費用を、適切な基準に基づき各活動に按分する
活動の区分は以下のように行っています。
- 原水を得るための活動
- 浄水場で水をきれいにする活動
- 浄水場からお客さまの蛇口まで水を届ける活動
- メータの検針、料金の算定・徴収、窓口サービス等を行う活動
- 水道事業における全般的な管理事務を行う活動
令和5年度の計算結果は以下のように公表されています。
活動 |
金額 |
割合 |
給水原価 |
① 原水を得るための活動 |
2,380,618,195円 |
4.6% |
6.52円 |
② 浄水場で水をきれいにする活動 |
12,939,953,260円 |
25.3% |
35.46円 |
③ 浄水場からお客さまの蛇口まで水を届ける活動 |
23,145,082,136円 |
45.2% |
63.43円 |
④ メータの検針、料金の算定・徴収、窓口サービス等を行う活動 |
6,085,141,348円 |
11.9% |
16.68円 |
⑤ 水道事業における全般的な管理事務を行う活動 |
6,653,757,814円 |
13.0% |
18.23円 |
計 |
51,204,552,753円 |
100.0% |
140.32円 |
大阪市水道局の事例では、活動基準原価計算の基礎的な考え方が理解できるため、モデルケースとして有益な事例と言えます。
食品会社の物流部門でのピッキングに着目した事例
某食品メーカーの企業さまでは、物流センターのピッキングに着目してコストの改善を行っています。
従来は人件費や設備費用、資材の費用など見えやすいコストを積み上げて利益計算を行っていました。
しかし、活動基準原価計算を導入して分析を行ったところ、入荷・ピッキング・梱包・加工といった活動ごとのコストや作業単価を把握できました。
例えば、同じピッキング(荷物出し)作業でも、顧客の依頼で店別のピースピッキングを行って出荷する場合とケース単位で出荷する場合での作業コストの差を具体的に算出できるようになりました。
ピッキング作業でのコスト把握により、物流コストには営業部門での顧客との交渉や約束事が影響していることにもたどりつき、コスト削減のための改善活動を進めています。
韓国の半導体組立企業で部門の組織統合につながった事例
韓国の半導体組立を行う企業さまでは、活動基準原価計算の結果、部門の組織統合を行うまでの改革を行いました。
半導体産業では特殊な取引構造があり、製造間接費が他業種と比べて高い傾向にありました。
営業部門からの指摘もあり、製造原価の妥当性を高めるためにデータ集計と分析を開始しました。
活動分析を行っていると、ある活動が7、8部門で重複して行われていることがわかり、重複している活動や業務の特性により組織を統合・再調整を行えました。
また、経営会議内でも算定された原価を元にスムーズな会議運営を行っています。
活動基準原価計算で今までの視点を変えたコスト分析を行うことが重要

本記事では、活動基準原価計算(ABC)について概要や計算方法、簡単な計算例などをご紹介しました。
また、メリットやデメリット、事例なども併せて解説しました。
活動基準原価計算は、時代の変化とともに多様化するコスト構造を可視化し、経営判断の参考にもなる計算手法です。
従来の配賦法の欠点を補う一方で、データ収集の難しさや導入コストの高さといった課題もあります。
モノづくり企業においては、活動単位で業務分析を行い、継続的に経営に生かす仕組み作りが重要です。
下記のホワイトペーパーでは、モノづくりにおける製造原価の基礎や原価の種類、原価率の改善方法などを解説しておりますので、ぜひご一読ください。
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