セル生産方式とは、組立製造型のモノづくりにおける生産方式の一つです。一人または少数の作業者でチームを組み、製品の組立を完成まで受け持ちます。
本記事ではセル生産方式のメリットやデメリットを解説するとともに、弱点を補うためのIT技術を活用したダイナミックセル生産方式についてもご紹介します。

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セル生産方式とは
本章では、セル生産方式の概要やライン生産方式との違い、セル生産方式の種類について解説します。
セル生産方式の概要
セル生産方式とは、組立製造型の生産方式の一つです。
L字型やU字型に部品や工具を設置して、一定の範囲の工程を1名〜少数名の作業者で完結させる生産方式のことを指します。
セル生産方式は組立製造型のモノづくりにおいて有効な生産方式です。
モノづくりを行う企業は主に組立製造型とプロセス製造型の工場に分かれます。
違いは以下の通りです。
組立製造型 |
プロセス製造型 |
|
製品 |
電子機器や自動車など |
石油・紙・薬品など |
工程 |
部品を組み合わせて 製品を完成させる |
原料を混ぜて化学反応や合成で製品を完成させる |
改善視点 |
工程間の人やモノの動きを管理してムダを削減 |
設備トラブルの防止 |
組立製造型の自動車工場を例に挙げると、エンジンの組立・ボディの組立・内装の組立などのセルに分かれて生産を行っています。
工程ごとに仕掛品を完成させて次の工程へ進んでいくため、工程間の人やモノの動きを管理してムダを削減できる点がメリットです。
セル生産方式とライン生産方式の違い
組立製造型はさらに、セル生産方式とライン生産方式に分かれます。
ライン生産方式とは、ラインに各作業者を配置し、流れ作業のように組立製造を行うことを指します。
セル生産方式とライン生産方式の違いは、以下の通りです。
セル生産方式 |
ライン生産方式 |
|
生産 |
多品種少量生産に向いている |
大量生産に向いている |
作業者の育成期間 |
作業者の知識が幅広く、 育成に時間が必要 |
作業者が早く独り立ちできる |
作業者の能力 |
多能工育成に向いている |
単能工化しやすい |
切り替えロス |
切り替えロスが少ない |
切り替えロスが多い |
セル生産方式の種類
セル生産方式には以下の4つ種類があります。
- 一人方式
- 分割方式
- 巡回方式
- インライン方式
生産工程をセルで分割し、セルごとに工程管理を行う点は共通していますが、人員の配置の方法に違いがあります。
それぞれの特徴を解説します。
一人方式
一人方式とは、一人で一つの工程の作業を完結する作業方式です。
昔ながらの職人が一つの製品を完成させる方式で、作業者の高いスキルが求められ、生産効率も高まります。
一人方式の特徴は以下の通りです。
- 作業効率は高いが、作業者の能力に大きく左右される
- 育成期間がかかる
- 生産量が少なく、技術的な難易度が高い製品に採用しやすい
分割方式
分割方式とは、セル内に複数の作業者を配置して、作業工程ごとに担当させる作業方式です。
リレー形式で一つの仕掛品を作っていきます。
分割方式の特徴は以下の通りです。
- 作業者ごとの熟練度に左右されるため、バランスを取ることが大事
- ある程度の多能工化が期待できる
- 作業者同士のコミュニケーションが取りやすい
巡回方式
巡回方式は、作業者がセルを巡回しながら作業を行い、仕掛品を完成させる作業方式です。
分割方式は複数人の作業者がセルに配置され作業自体を分割するのに対して、巡回方式は作業者がすべての工程の作業を行います。
イメージとしては、マラソン形式で一つの製品を完成させていきます。
巡回方式の特徴は以下の通りです。
- 作業者のスピードの差に対応するために追い抜き場所が必要
- 投入する作業者の人数によって生産量を調整できる
- 作業者の育成に時間がかかる
インライン方式
インライン方式は、セル内で製品をコンベアに乗せ、作業者が各工程で必要な作業を行う方式です。
上流のセルで必要な部品等を作り、下流のセルで組立を行います。
インライン方式の特徴は以下の通りです。
- ライン生産方式に近く、ライン生産方式からの変更が比較的容易
- 作業者の移動が少なく、効率的に大量生産できる
- 工程間のコミュニケーションを取るのが難しい
他にも、一人生産方式や分割方式で、製品を流す際にコンベアを使う方式をインライン方式と呼ぶこともあります。
セル生産方式のメリットとデメリット
セル生産方式は、多品種少量生産向きの生産方式であり、多くのモノづくり企業で採用されています。
セル生産方式のメリットとデメリットをご紹介します。
セル生産方式のメリット
セル生産方式には以下のようなメリットがあります。
- 柔軟な生産計画を立てられる
- 導入コストを抑えられる
- 多能工化を進められる
- 改善が進みやすい
柔軟な生産計画を立てられる
セル生産方式では、市場や顧客のニーズに合わせた柔軟な生産計画を立てることができます。
セルに投入する人数やセル自体の数を増減できることが主な理由です。
頻繁にモデルチェンジが行われるような製品や、多品種少量生産を行う場合にはセル生産方式を採用するケースが多く見受けられます。
導入コストを抑えられる
セル生産方式では、ライン生産方式よりも導入コストが抑えられるメリットがあります。
ライン生産方式では初期の設備投資に多くコストを必要とします。
一方、セル生産方式では手作業が多く機械設備投資が比較的少なく済むこと、セルへの投入人数やセルの増減により生産量を調整できることにより導入コストを抑えられます。
多能工化を進められる
セル生産方式は、多能工化を進めやすいメリットがあります。
作業者一人一人の作業範囲が広く、スキルが向上しやすいためです。
セル生産方式の作業者は、ライン生産で単純作業だけを熟しているよりも工程全体のことをよく理解してより良い動きができるようになる傾向があります。
多能工化が進めば、必要に応じて柔軟に人員投入ができるため、人件費の面でもコスト削減が期待できます。
改善が進みやすい
セル生産方式では改善が進みやすいこともメリットの一つです。
- 一つのセルで仕掛品が完成するため、異常があった際に場所や原因の特定がしやすい
- 作業者が工程の流れを把握しているため、ムダな動きや時間ロスに気付きやすい
- 仕掛品ごとに品質チェックを行うことができ、不良率の低減や手戻りを削減できる
以上の理由から、セル生産方式では継続的に改善を進めることができます。
セル生産方式のデメリット
一方で、セル生産方式は以下のようなデメリットもあります。
- 育成に時間がかかる
- 急な増産に対応できない
- 属人化しやすい
- 納期管理や工程管理が複雑になりやすい
育成に時間がかかる
セル生産方式では、育成に時間がかかることがデメリットの一つです。
作業者がセル内で複数の工程の作業ができるようになるためには、幅広い知識とスキルが必要です。
そのため、一人の作業者を育成するのには多くの時間をかけなければなりません。
急な増産に対応できない
セル生産方式は、急な増産に対応できないことがデメリットです。
投入する作業員やセルの増減によって生産量を調整できますが、セルの生産能力にも限界があります。
需要が急増した場合には、人員を急に増やすことも難しく、大量生産には対応できないことがあります。
属人化しやすい
セル生産方式は、属人化しやすい点が課題です。
手作業も多く、作業者のスキルや知識、経験に頼りきりになってしまう傾向にあります。
熟練工のスキルに頼ってしまうと、熟練工が休みを取ったり、退職した場合に品質の悪化や生産性の低下につながりかねません。
作業の標準化やマニュアル化など、属人化しづらい仕組みを作っていくことも重要です。
納期管理や工程管理が複雑になりやすい
セル生産方式は、納期管理や工程管理が複雑になりやすいデメリットもあります。
作業者のスキルや熟練度に左右されるため、新人と熟練工では生産量にも差が出てしまいます。生産計画の立案や納期管理が複雑になりやすいといえるでしょう。
また、セルが複数あることで、それぞれの工程管理が必要となり複雑になってしまうこともデメリットの一つです。
セル生産方式の具体例
次に、セル生産方式を採用している企業の具体例を挙げてご紹介します。
多品種少量生産向けのため、中小企業で採用されているイメージを持たれることも多いですが、大手でもセル生産方式を採用している企業もあります。
大手電子機器会社の例
某大手電子機器会社では、独自のセル生産システムを導入しています。
従来は製品ごとのライン生産方式を採用していたものの、柔軟な生産を見込めるセル生産システムへの切り替えを1998年から進めてきました。
電子機器製品は、種類も多く新製品の開発周期も短いものが多いため、セル生産方式を採用し始めた経緯があります。
新製品の開発の度に大きくラインを変えるのではなく、セルの配置変えを行うことでコストや影響少なく対応が可能です。
具体的には以下のような特徴があります。
- 工程間の移動が削減されてリードタイムが短くなる
- セルが独立しているため、設備費削減や在庫のムダに気付きやすくコスト削減につながる
また、製造に必要な設備も社内で生産を行うことで、不具合の改善が行いやすくなります。
大手電気・精密機器会社の例
某電気・精密機器会社でも、組立工程にセル生産を採用しています。
電化製品などは市場のニーズが変化しやすく、一つのセルで1カ月に100種類ほどの製品を生産するケースもあります。
数カ月生産しない製品もあるため、特に属人化には注意を払っています。
マニュアル化や工程管理にもシステムを活用し、職人が変わると生産できないような状態にならない工夫を続けています。
ITを活用したダイナミックセル生産方式とは
近年では、ダイナミックセル生産方式と呼ばれるセル生産方式のデメリットを補う新しい生産方式が生まれています。
ダイナミックセル生産方式について解説します。
ダイナミックセル生産方式の特徴
ダイナミックセル生産方式とは、セル生産方式とライン生産方式のメリットを組み合わせた手法です。
インダストリー4.0(第四次産業革命)の一例として適用される場合もあります。
近年市場のニーズはさらに多様化しており、多品種少量生産から「変種変量生産」へと移行しているモノづくり企業も増えています。
ダイナミックセル生産方式では、セル同士をクラウド上で接続し、臨機応変にセル同士を接続できるようにします。
ダイナミックセル生産方式のメリット
ダイナミックセル生産方式のメリットは、以下のような点です。
- 仕様変更が容易
- AI技術との親和性が高い
仕様変更が容易
ダイナミックセル生産方式ではセルごとに分かれていることで、仕様変更を比較的容易に行うことができます。
切り替えについても、セルの組み合わせを変えるだけで良いため、全体の稼働率を下げずに生産を行えます。
また、作業の遅延やチョコ停が発生した際には、クラウド上で管理をしているためリアルタイムに状況が把握でき、柔軟な対応が可能です。
AI技術との親和性が高い
また、ダイナミックセル生産方式はIT技術との親和性が高い点がメリットです。
IoT機器やAIを積極的に活用すれば、以下のような効果を得ることができます。
- IoTやAI、ロボット活用で属人化のデメリットを解消する
- 作業手順を映像化して共有する
- 組立のためのツールをIoT化してポカよけをする
- 間違いが起きやすい作業にAIやロボットを活用する
セル生産方式のメリットやデメリットを理解して自社に合った生産システムを採用する
生産方式にはさまざまな手法がありますが、一概にこれが良いといえるものではなく、自社製品の市場ニーズや顧客の要望に応じて選択していく必要があります。
しかし、日々消費者のニーズや市場は急激に変化しており、時代に合わせたモノづくりを行っていかなければなりません。
セル生産方式のデメリットでも述べたように、属人化や納期管理・工程管理の複雑さを解消するためには、IoT機器・生産システムなどIT技術の積極的な活用も重要です。
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