モノづくり企業にとって、利益を出すためには原価計算を正確に行うことが重要です。今回は、原価の一つである標準原価について解説します。
標準原価は、多くのモノづくり企業で原価低減のための目標数値として利用されています。
本記事では、標準原価の特徴や標準原価計算の流れだけでなく、見積原価や実際原価など他の原価との違い、標準原価計算を効率化するための方法についてもご紹介します。

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標準原価とは
標準原価とは、材料や製造に必要な労務費などの消費量から統計的に調査して算定される原価の種類の一つです。
製造前に予め計算されるため、予定原価のうちの一つと分類されます。
モノづくり企業では、製造に伴い発生した材料費や労務費、間接費などの実際に発生した原価と標準原価とを比較し、現状の課題を把握した上で将来的な原価低減に役立てられています。
標準原価は実際にかかった原価ではなく、トラブルや特殊な事情がなく製造ができた場合に想定される原価を表すため、製造前に予算を立てやすくなる一方で、製造中に条件が変動した場合には大きくズレが起きてしまうこともあります。

標準原価の種類
標準原価は、統計的に算定される原価のことで、実際に掛かったコストと比較して原価低減へ役立てられますが、標準原価は次の4種類に分類されます。
- 理想標準原価
- 現実的標準原価
- 正常原価
- 基準標準原価
本章では、4種類の標準原価について詳しく解説します。
①理想標準原価
理想標準原価とは、現在の技術レベルで最高の効率でモノづくりを行うことを想定した原価です。
現実的な人員配置や設備稼働率を考慮していないため達成が難しく、財務の用途としては採用されません。
実際の原価と比較した上で、差額の大きな項目に対して改善策を講じるための参考指標としています。
②現実的標準原価
現実的標準原価とは、予想される能率から達成できる原価です。
実際に生じることを前提としており、短期間での計算を行い、原材料の価格や設備稼働状況などの実態に応じた数値が導き出せます。
現実的な目標数値として適しており、予算編成や棚卸資産価額の算出にも使われる原価管理に適した数値です。
③正常原価
正常原価とは、過去の長期実績をベースに、将来の見通しを加えた原価です。
理想標準原価よりも実態に即した数値を導き出せますが、経営における異常な状態を排除した数値のため、経済状態が安定している場合に有効です。
④基準標準原価
基準標準原価とは、一度立てた標準原価を翌年以降も継続して使用する場合の数値で、翌年度以降も製造方法等に変化がなく長期間活用されることを前提としています。
現実的な目標数値として活用されることは少なく、将来の原価動向を把握するときの基準として使われます。
標準原価計算とは
標準原価の種類を理解したところで、次に標準原価を基に行う標準原価計算について解説します。
標準原価計算とは、標準原価をもとに、標準原価と実際原価の差異を分析して経営管理に活かすための計算のことです。
本章では標準原価計算についてメリットやデメリットをご紹介します。
標準原価計算のメリット
標準原価計算には、大きく2つのメリットがあります。
- 無駄やロスの特定に有効
- 原価管理の目標値として活用できる
以下で詳しく解説します。
無駄やロスの特定に有効
標準原価計算は、無駄やロスの特定に有効であることがメリットの一つです。
原価管理や原価低減のために有効な方法であり、標準原価と実際原価の間に生じた差異を比較し、細かい原因分析によって、無駄やロスの発生箇所を特定できます。
標準原価計算による問題点の洗い出しによってロスの原因を排除し、生産性を向上させられれば、より効率的な経営につながります。
原価管理の目標値として活用できる
標準原価計算のもう一つのメリットは、算出された標準原価が原価管理の目標値として活用できる点です。
標準原価は予め化学的、統計的に算出されるため、特別な事情がない限り変更されることがありません。
また、ある程度の正確性が担保されるため、原価管理において目標値として機能します。
標準原価計算のデメリット
一方で、標準原価計算には以下のようなデメリットも存在します。
- 実際原価と大きくズレが出る可能性がある
- 時間や人的コストが掛かる
以下で詳しく解説します。
実際原価と大きくズレが出る可能性がある
標準原価計算のデメリットの一つは、実際原価と大きくズレが生じる可能性があることです。
標準原価計算では、トラブルや特別な事情を考慮していないため、急激な物価変動や燃料費、物流コストといった近年の物価変動に十分に対応しづらい弱点があります。
製造前に予め計算しておいた標準原価を利用して予測を立てたとしても、大きな変動が生じた際には、実際原価と大きく差異が出て意味のない指標となってしまうリスクもあります。
時間や人的コストが掛かる
標準原価計算のもう一つのデメリットは、時間や人的コストが掛かってしまう点です。
綿密な標準原価計算をもとに目標となる標準原価を設定したとしても、実際原価とは少なからず差が出てしまいます。
材料費や労務費、間接費、労務費など差異が出てしまった項目のひとつひとつに詳細な分析を行うためには、時間も人的コストも掛かってしまいます。
標準原価計算の流れ
標準原価計算のメリットとデメリットを理解したところで、本章では実際の標準原価計算の流れをご紹介します。
標準原価計算には主に現実的標準原価、または正常原価が用いられます。
実際に発生した原価と標準原価の差異を比較分析し、無駄やロスを排除して生産性を向上させることが目的です。
標準原価計算は、以下の流れで行われます。
- 原価標準を設定する
- 標準原価を計算する
- 実際原価を計算する
- 原価差異を比較・分析する
- 改善案を策定する
以下で詳しく解説します。
原価標準を設定する
まずは、目標となる原価標準を設定します。
原価標準とは、標準原価と誤認しやすい数値ですが、製品1個あたりの目標とする原価のことです。
対して、標準原価は製品生産量全体の目標値のため、分けて理解しておきましょう。
具体的には、1個の製品に対して、原価を以下の3種類に分けて設定します。
- 直接材料費:製品別の仕入価格や使用量で計算する
- 直接労務費:製品別の作業工数と目標賃率を使って計算する
- 製造間接費:実際原価を参考にして計算する
それぞれの原価に対して、標準単価と標準消費量を求めます。
原価標準は、以下の式で求められます。
原価標準 = 標準単価 × 標準消費量
標準単価は、過去の実績や将来の見通しを基に設定されます。
標準消費量は、製品を1個生産するために理論上、もしくは現実的に必要とされる材料や作業時間の量です。
標準原価カードにまとめると、わかりやすくなるためおすすめです。
以下の表では簡単な例を挙げてご紹介します。
▶︎【製品A】標準原価カード
費目 | 標準単価 | 標準消費量 | 原価標準 |
直接材料費 | @30円 | 10 kg | 300円 |
直接労務費 | @500円 | 3 時間 | 1,500円 |
製造間接費 | @400円 | 4 時間 | 1,600円 |
原価標準 | – | – | 3,400円 |
以上により、【製品A】の原価標準は、3,400円です。
上記のように標準原価カードを活用して、製品1個ずつの原価標準を設定します。
標準原価を計算する
次に、1カ月ごとの標準原価を計算します。
基本的には、以下の計算式で計算します。
標準原価 = 原価標準 × 完成品数
先ほどの【製品A】の例として、以下の条件で標準原価を計算します。
完成品:50個
月末仕掛品:80個(仕上がり具合:40%)
まずは完成品の標準価格を計算します。
▶︎【製品A】完成品
完成品の標準価格 = 原価標準 × 完成品数 = 3,400 × 50 = 170,000
次に、月末仕掛品の標準原価を計算します。
直接材料費は仕掛品数をそのまま掛けて計算できますが、直接労務費と製造間接費は仕上がり具合も計算しなければいけないことに注意しましょう。
▶︎【製品A】月末仕掛品
直接材料費 = 300 × 80 = 2,400
直接労務費 = 1,500 × 80 × 0.4 = 48,000
製造間接費 = 1,600 × 80 × 0.4 = 51,200
仕掛品の標準原価 = 101,600
そして、1カ月の標準原価を算出します。
▶︎【製品A】1カ月の標準原価
1カ月の標準原価 = 完成品の標準原価 + 仕掛品の標準原価
= 170,000 + 101,600 = 271,600
よって、【製品A】の1カ月の標準原価は271,600円であることがわかります。
実際原価を計算する
次に、実際に製品を製造する際に掛かった実際原価を計算します。
標準原価を算出した際と同様、以下の3つの項目について実際に掛かった原価を集計します。
- 直接材料費
- 直接労務費
- 製造間接費
本来は実データを取らなければなりませんが、今回は【製品A】の実際原価を仮に290,000円とします。
原価差異を計算・分析する
標準原価と実際原価が算出できれば、差異を計算します。
上記の【製品A】の例の場合、以下の計算を行います。
▶︎【製品A】の原価差異
原価差異 = 標準原価 – 実際原価
271,600 – 290,000 = △18,400
以上により、【製品A】の原価差異は△18,400円です。
原価差異がマイナスの場合には、不利差異と言い、プラスの場合には有利差異と言います。
標準差異は目標値であるため、不利差異の値が大きい場合には原因分析が必要です。
費目別に示している標準原価カードを参考にすると、原因分析に役立ちます。
改善案を策定する
原価差異計算の分析結果を基に、改善案を策定します。
改善案の例としては、以下が挙げられます。
- 製造部門:歩留まりや生産技術の向上
- 購買部門:仕入先や発注方法の見直しによる材料費の低減
- 間接部門:水道光熱費や消耗品費、通信費等の見直し
年間計画や数カ月単位の目標計画として作成・見直しを繰り返すことで改善を目指します。
また、モノづくり企業のコストダウンの戦術について以下の記事で詳しくご説明しておりますので、ぜひご参照ください。

標準原価と他の原価の違い
本章では、標準原価と混同しやすい見積原価や実際原価といった他の原価との違いについて解説します。
見積原価とは
標準原価と混同しやすい原価の一つとして、見積原価が挙げられます。
見積原価とは、企画・開発・設計の段階で構想図や設計画面に基づき計算された製品の原価のことです。
モノづくり企業では、見積原価を使い、損益分岐点を求めて利益計画を行います。
見積原価は、製造する前に予め計算されるため、標準原価と同じ予定原価の種類の一つです。
標準原価と見積原価の違いは、まとめると以下の通りです。
標準原価 | 見積原価 | |
目的 | 原価低減、原価管理のため | 利益計画のため |
算出タイミング | 製造実績のある製品の製造前 | 企画・設計・開発時 |
算出方法 | 製造実績を基に統計的に算出 | 製造実績がないため推定で算出 |
以下では見積原価についてさらに詳しく解説します。
新製品の企画では、現状の設計仕様や技術力で生産を行った場合の製品原価を推定して計上されます。
価格を事前に決めていた目標原価との差異を比較して利益計画を行います。
見積原価を出すには次の3つの方法があります。
- 経験見積法:ベテランの経験と判断で原価を算出する
- 比較見積法:類似品の原価をベースに、仕様差などを比較して算出する
- 概算見積法:コストテーブルを使い個々の部品ごとに材料費や加工費などを積み上げて算出する
製品の価格については過去の実績や経験と判断を基に算出した見積原価と、黒字になるようマージンを加えて考えます。
利益を出せる価格設定を行うためには、過去の見積実績や類似製品の原価実績を参照していなければ見積の根拠が曖昧になってしまいます。
見積精度の向上と適正利益の確保には、生産管理システムなどを使い過去の実績をスムーズに確認できる体制を整える必要があります。
実際原価とは
前述した標準原価の計算の中にも出てきた、実際原価も混同しやすい原価の一つです。
実際原価とは、製品の製造過程で実際に発生した費用を集計して計算された原価です。
製造後、実際に使用した原材料や部品などの数量と取得単価、実際に費やされた作業時間、実際に発生した諸経費などを正確に積算して計算を行います。
標準原価と実際原価の違いは、以下の通りです。
標準原価 | 実際原価 | |
目的 | 原価低減、原価管理のため | 財務会計、原価管理のため |
算出タイミング | 製造実績のある製品の製造前 | 製造後 |
算出方法 | 製造実績を基に統計的に算出 | 実際の原価を忠実に算出 |
実際原価については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。

標準原価計算を効率化するには
標準原価計算を効率化するには、原価管理システムの導入や見直しが有効です。
標準原価計算は原価低減や原価管理の目標値として、算出のメリットは大きいものの、正確に計算するための時間や人的コストが掛かってしまうデメリットがあります。
また、製品ごと、1個単位、費目単位での数値計算を進める中で、計算間違いが起きてしまうことで目標数値となる標準原価も大きくズレてしまうリスクも想定されます。
Excelなどの表計算ソフトを使って原価管理を行っていると、計算式がずれてしまう、原価の変動があった際に都度データを書き換える必要があるなど、手間も掛かってしまいます。
原価管理システムの導入には、以下のようなメリットがあります。
- 手入力のミスなどのヒューマンエラーを防止できる
- 計算にかかる時間や人手を軽減できる
- 損益分岐点の算出など経営判断をサポートできる
- 原価変動リスクに対応できる
また、原価管理システムでは一般的に以下の機能が搭載されています。
- 原価計算機能
- 原価差異分析機能
- 損益計算機能
- 配賦計算機能
- 原価シミュレーション機能
- システム連携機能
原価管理システムの導入メリットや選び方については、以下の記事でも詳しくご紹介していますので、ぜひご一読ください。
標準原価を理解してコスト管理や価格設定に役立てよう
標準原価は実際原価と比較することで、無駄やロスの確認改善に役立つでしょう。見積原価は過去の実績や経験に、マージンを加えて算出することで適正利益を導きます。どちらも会社の利益を高めることを目的としていますが、算出方法や方向性が少しずつ違います。内容を理解して使い分けてください。