生産管理

 

需要予測の重要性を徹底解説|5つの手法と精度向上のためのポイント

需要予測の重要性を徹底解説|5つの手法と精度向上のためのポイント

企業では、利益を最大化するために正確な需要予測が求められています。しかし、需要予測は難しく、より精密な需要予測を行いたいと考えている企業は多いのではないでしょうか。

精度の高い需要予測値を得るためには、適切なデータと手法を用いることが大切です。

この記事では、需要予測の4つの種類と手法について解説します。精度向上のためのポイントや、活用事例も紹介しているので、ぜひご覧ください。

需要予測とは

需要予測とは商品やサービスの需要を、科学的な手法を用いた分析に基づいて予測したものです。市場動向や過去のデータなどの情報を分析して、短期的あるいは長期的な予想を行います。需要予測を理解するために、目的と重要性を確認しておきましょう。

需要予測の目的

需要予測は、仕入や販売など利用する業務によって目的が異なります。ビジネスチャンスを最大限生かすためには、目的に合わせた需要予測を活用しなければなりません

製造や流通に関わる業務では、次のような目的で需要予測が利用されます。

  • 生産量の最適化(製造)
  • 供給量の最適化(流通)

製造や流通といった業務のほかに、設備投資、人員配置といった領域でも需要予測が利用されます。目的に合わせた需要予測の活用で、コストの削減やマーケティング活動の効率化を図ることができます。

需要予測の重要性

企業の市場価値を高めるためには正確な需要予測が重要です。需要予測の活用によって、企業はニーズに応えるビジネスを展開できます。

需要予測は、事業計画の決定に大きく影響します。需要予測によって、商品やサービスをどのように展開すべきなのか知り、必要な取り組みが明確になるからです。在庫の確保や、人材の確保などを過不足のないよう計画できます。

正確な需要予測を行うことは、ビジネスの成長に欠かせません。

需要予測の4つの種類

需要予測は主に以下の4つの方法で行われます。

  • 過去のデータを用いる統計的予測
  • 専門家などの経験による予測
  • 市場調査に基づいた予測
  • AIによる予測

それぞれ詳しく確認しましょう。

過去のデータを用いる統計的予測

需要予測を行う方法の一つに、過去のデータを用いる統計的予測があります。

過去のデータを用いた需要予測は、需要の移り変わりや売上実績などを基に予測を立てる方法です。この方法では、いつどのような商品が売れるのか、購入者層や気候などの外的要因も合わせた、過去の資料が使用されます。

しかし天候や流行など、過去のデータと大きく異なる要因がある場合、正確な予測が立てられない場合があります。そのため、定期的に予測モデルの見直しや精度の確認が必要です。

専門家などの経験による予測

専門家などの経験によって需要予測を行う方法もあります。

専門家などによる需要予測は、培われてきた経験や勘、スキルや知識が用いられることが多いです。経験豊富なメンバーであれば、適切な予測を立てられる可能性が高い方法です。また、状況が突然変化しても柔軟に予測できます。

しかし、精度の不確定性や、予測の継続といった観点から近年ではデジタルデータなどを利用した需要予測が一般的です。

市場調査に基づいた予測

需要予測は、市場調査に基づいて行われることもあります。

商品やサービスを提供する市場の調査を行い、得られた結果を基に予測を行う方法です。競合商品やサービスの販売状況の調査、ターゲット層へのアンケートなどで資料を得ます。

調査の結果から得られる需要予測は、一定の精度が期待できます。この方法を用いることで、新たに参入を考えている市場のニーズを調査することも可能です。

しかし、他の方法に比べ調査のための期間が長く、コストがかかることを考慮しなければなりません。事前計画を立て、コストパフォーマンスを把握する必要があります。

AIによる予測

昨今は、AIによって需要予測を行うことも少なくありません。

AIを用いる方法では、過去に集積した販売データやビックデータを解析し需要予測を立てます。この方法を用いると、高精度の予測が実現可能になります。

ただし、AIを導入する場合には、教師データと呼ばれる学習用データを用意しなければなりません。また、莫大なデータや難しいシステムを取り扱える人材も必要です。

AIによる予測は精緻な予測をもたらす一方で、使用するビッグデータなどに莫大なコストがかかります。そのため費用対効果などの慎重な検討が必要です。

需要予測に用いられる5つの手法

需要予測は以下の5つの手法を用いて算出します。

  • 算術平均法
  • 移動平均法
  • 指数平滑法
  • 回帰分析法
  • 加重移動平均法

それぞれ要点を確認しましょう。

①算術平均法

算術平均法は、すべての資料の合計値を資料数で割って平均値を算出する方法です。算出された平均値が需要予測です。安定した市場や一定のタイプを持つ需要に効果があります。

例)過去5か月のデータを使用して翌月(11月)の販売個数を予測する

 

販売個数(個)

6月

7,500

7月

8,750

8月

8,800

9月

7,450

10月

8,150

合計

40,650

翌月(11月)の販売個数

=すべての資料の合計÷資料数

=40,650÷5

=8,130(個)

以上のように過去のデータを用いて需要予測を立てることができます。

とても簡単で、仕組みが理解しやすい計算方式です。ただし過去のデータをすべて等しく考慮するので、流行などを反映させることは難しいことに注意しましょう。

②移動平均法

移動平均法は、データ範囲を移動させながら予測値を得る方法です。直近のデータや一部のデータのみで算出するため、中期的な傾向を反映させることができます。

例)過去6か月のデータを用いて翌月の販売個数を予測する

 

販売個数(個)

3か月の移動平均

4カ月の移動平均

6月

7,500

   

7月

8,750

   

8月

8,800

   

9月

7,450

8,350

 

10月

8,000

8,333

8,125

11月

8.150

8,083

8,250

予測(12月)

7,750

7,866

8,100

【Aか月の移動平均を求める計算式】

予測したい月の前Aか月の販売個数の合計÷A

3か月移動平均を求めたい場合には、予測したい月の前3か月(この場合、9・10・11月)の販売個数の合計÷3で求めます。

移動平均法のメリットは、算術平均法に比べ短期的な変動やノイズを除去できることです。一方で、データが出るたびに算出が必要になるほか、選択するデータの範囲によって予測結果が大きく変わることに注意が必要です。

③指数平滑法

指数平均法は、過去のデータと予測値から新たな予測値を算出します。新しいデータを重視しながら計算するため、過去のデータよりも最新データが需要予測の結果に反映されやすい計算方法です

指数平滑法により求める予測値の計算式は以下の通りです。

予測値 = α × 前実績値 + (1 – α) × 前予測値

式に入るαは、前回の実績が予測からどの程度離れていたかを示しており、「0<a<1」の範囲で設定します。設定が0に近いほど過去を、1に近いほど直前の実績を重視した予測です。αの値は、0.1〜0.3の間で設定するのが基本です。

例)指数平滑法を用いた翌月の販売個数の予測

前実績値が7,900個、前予測値を7,966個と仮定した場合

α=0.2

予測値 = 0.2× 7,900 + (1 – 0.2) × 7,966=7,953

指数平滑法は、市場の動向や流行を反映しません。そのため需要が一定のレベルでランダムに変動する商品の予測に適しています。

④回帰分析法

回帰分析法は、因果関係が認められる数値同士の関係性を明らかにし、需要を計算する方法です。予測に影響を与える要因ごとに、影響力の違いを把握できます

因果関係が考えられる数値間の折れ線グラフで示したのち、直線「Y=a+bX」を求めます。回帰分析法では、顧客数や天候などの要因を設定でき、同時に複数設定も可能です。結果と要因の因果関係を可視化できるので、根拠のある推測をするのに役立ちます。

しかし、データに偏りがあったり、量が少ない場合には正確な需要予測が困難です。また、計算が複雑で分析を間違えるリスクもあるので、計算時には注意が必要です。

⑤加重移動平均法

加重移動平均法は、移動平均法の一種です。移動平均法よりも、最新のデータを重視して算出します。

加重移動平均法では、以下の式で需要予測を求めることができます。

(A月の加重係数×A月の販売数量)+(B月の加重係数×B月の販売数量)+……÷加重係数の合計

加重係数は0から1の間でそれぞれに振り分けます。例えば、前月の加重係数を1として、1カ月戻るごとに0.1ずつ減少させていくと仮定しましょう。

先月のデータは1、2か月前は0.9、3か月前は0.8とそれぞれ販売数量をかけて合計し、加重係数の合計の2.7で割れば需要予測を求めることができます。

加重移動平均は大きなデータの変動や流行に有用です。ただし、適切な加重係数を設定する必要があり、専門知識を保有した人材に行ってもらうのが良いでしょう。

需要予測の精度向上のためのポイント

需要予測の精度を向上させるためには、以下の3点が大切です。

  • 過去データを用いて誤差を少なくする
  • 予測値と実績値を定期的に分析・評価する
  • 元データの量と質を向上させる

以下で詳細を確認しましょう。

過去データを用いて誤差を少なくする

需要予測の精度を高めるには、過去データを用いて誤差を少なくするのがポイントです。過去のデータを用いて手法の精度を試すことで、誤差の少ない方法を選ぶことができます。

いくつかの手法を同じデータを用いて比較し、より誤差の少ない手法で需要予測を立てることが大切です。

過去データで手法の精度を試すことで、企業の状況に即した手法が明確になります。適切な手法を選び、精度の高い需要予測を利用しましょう。

予測値と実績値を定期的に分析・評価する

予測値と実績値の定期的な分析・評価も、需要予測の精度を高めるポイントです。予測値と実績値の誤差の原因を調べることで、誤差を減らすことにつながります。

実績値が判明したら、予測値とどの程度差があるのか確認しましょう。過大予測や過少予測といった誤差の傾向や、時間軸と誤差の関係などをチェックします。そのうえで、データの質や外的要因、手法の適合性など誤差の要因の検討をしましょう。

分析や評価を行うときは、分析内容や分析結果などを記録しておくことをおすすめします。使用資料や手法を記録しておけば、後の分析に役立てられます。

元データの量と質を向上させる

需要予測の精度を高めるには、元データの量と質を向上させることもポイントです。十分な量と、適切なデータがあればより高精度の予測を立てることができます。

データの質と量を高めるためには、継続的なデータの収集とデータクレンジングが必要です。数年以上蓄積されたデータは、流行や季節性を精密に反映したデータです。データクレンジングは、収集したデータの異常値やノイズを取り除く作業のことで、データクレンジングを行うことで、質の良いデータセットになります。

データを収集するときには、関連する補助資料も集めておくのがおすすめです。気象や経済指標などの外的要因データは、予測の分析や評価をより詳細にする手掛かりになります。

需要予測の課題

需要予測には、以下の3点の課題があげられます。

  • 予測精度の低さ
  • 需要予測業務の属人化
  • 生産品目の多さ

それぞれ詳しく確認しましょう。

予測精度の低さ

需要予測を利用する業務として、営業と需給調整の2つの立場に大きく分けられます。営業業務にありがちな課題としてあげられるのが、予測精度の低さです。

営業業務では売上予測の精度が低い傾向にあります。これは、営業部がビジネスチャンスの損失をできるだけ少なくしようとする傾向にあるからです。営業目標の数値に対応して、過剰な生産や在庫確保を求めます。そのため、需要予測と営業目標値が混在してしまいます。

企業内での評価指標が営業目標値の達成に重きが置かれていることも、営業業務での売上予測の精度が低い要因です。予測精度の低さを克服するためには、需要予測の意義や位置づけを社内で共有することが大切です

需要予測業務の属人化

需要予測は、専門知識や経験が求められるために属人化してしまうことが多々あります。熟練の担当者の需要予測は企業にとって有益である一方、新人の育成や業務の継承が課題です。担当者の退職などで需要予測業務が滞れば、ビジネスチャンスの損失を招きます。

生産品目の多さ

生産品目の多さも需要予測の課題です。生産品目が多いほど、参考データの精査や落とし込みに時間がかかります。そのため、すべての商品で同じ精度の予測を立てることが困難です。

営業部の売上予測を基に、需要予測を立てる場合、売上予測は営業目標値に影響され、状況に即していない可能性があります。精度の低い売上予測を精査し、膨大な生産品目に落とし込むことは非常に困難です。

需要の調整ミスは、経営に大きな影響を与えます。生産品目が多い場合、重大なミスを避けるための取り組みとして、AIなどを活用した需要予測が期待されています。

製造業における需要予測の活用事例

製造業では次のように需要予測が活用されています。

  • 原材料の調達
  • 製品の生産
  • 交換部品の確保

以下で詳しくご紹介します。

原材料の調達

ある食品メーカーでは、需要予測に基づいて原材料の調達を行います。これにより原材料の調達量や、調達のタイミングが最適化されました。このように過不足のない原材料の調達で、コストの削減も期待できます。

製品の生産

製品の生産にも需要予測は活用されています。

ある企業では、予測にあわせて適切な生産計画を立て、生産ラインの稼働計画をより詳細に決定しました。

これによって、生産効率を向上させることができ、リードタイムの短縮にもつながりました。また新たに販売する商品の需要予測を用いて、初期生産量を決定した活用例もあります。

精度の高い需要予測を基に、生産計画を立案し、需要の変動に柔軟に対応できるようになりました

交換部品の確保

需要予測を交換部品の確保に活用している例もあります。

製造業などの場合、交換部品の確保が必要です。販売した商品の保証期間内は、修理用の交換部品も管理しておかなければなりません。

精密機器や、電化製品は長期間交換部品を維持しておく必要があります。そのような場合に、確保すべき交換部品の総数を需要予測によって求めることができます。

需要予測に基づいた交換部品の確保は、在庫コストの削減にも効果的です。適切な在庫の維持により、お客さま満足度の改善も期待できます。

需要予測の精度を上げて利益の最大化を目指す

需要予測の方法にはさまざまなものがありますが、精度の高い需要予測を得るためには、予測値と実績値の定期的な分析やデータの質と量を高めることがポイントです。需要予測の重要性や種類を確認して、目的に合わせたデータと手法を選びましょう。

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