働き方改革

 

農業の未来 メソポタミアの灌漑(かんがい)農業から未来都市(メトロポリス)のIT農業へ

※こちらの記事は発行時(2023年3月)の文章のまま掲載を行っております。

IT・IoTの普及発展が人間の進化のスピードを驚異的に早めている。金融やエンターテインメント、宇宙開発など、さまざまな分野を飛躍的に進化させていく一方で、世界中の食や文化を支える農業分野ではどうだろうか。
農業の技術革新の流れを追いながら、最新の農業のトレンドとITを活用した未来型農業への展望を取材した。

農業が人類を進化させた

人類史の技術革新の中で、最も根源的な変化をもたらしたのが「農業」だ。それまで狩猟採集生活をしていた人類は、その収穫量を自然に任せることしかできなかった。気候に恵まれ、たくさんの獲物が得られた時には塩漬けや乾燥などの方法で保存食にすることもあったが、冬季や収穫が乏しい時にはそのわずかな保存食を分け合い、それでも足らない場合は老人など、弱いものから死んでいくしかなかった。

そんな人類史において、ゲームチェンジャーとなったのは農業の発明だ。原始的な農業は各地で行われており、森を焼いて作物を育て、収穫量が下がってきたらまた移動する「焼き畑農業」などはその一形態だが、飛躍的な進化を遂げた背景には、メソポタミアやナイル川流域、中国黄河流域の華北で発達した「灌漑農業」というイノベーションが挙げられる。

灌漑農業とは天水(降雨)にだけに頼るのではなく、人工的な水路やため池などの用水の工夫をもって収穫量を増やそうという農業のことだ。この農業を実現させるために川や森などの形を変えることで水害を避ける「治水」という概念が生まれ、結果、定期的な氾濫を繰り返すような河川をコントロールしつつ、安定的な恵みを得る方法を生み出した。

社会性のある定住集落を作り、役割を分担しながら農業を行うことで、多くの食料を安定
して確保できるようになった。中でも保存性がよくて栄養価が高く貯蔵しておける「穀物」を育てるようになり、人類はついに食べ物を探し回る「狩猟採集生活」から解放されたのだ。

新たな「農業革命」へ

農業が進化する前の紀元前1万年頃にはわずか500万人に過ぎなかった人類が、農業を始めたことで紀元前1世紀ごろには2億5000万人にも人口が増えていたと推定できるという。しかし、このイノベーションによる人口増はこの時点から足踏みを続け、数億人程度を推移していたが、1750年頃を境に爆発的に増加。この人口爆発の引き金になったのが「農業革命」であり、同時に起こった「産業革命」であった。

主には、18世紀末から19世紀半ばにかけてヨーロッパで改良された農業手法・新たな輪作体系が普及したことが挙げられる。従来行われていた麦作の後に、マメ科の作物や根菜類を作付けすることで連作障害を防ぎ、麦作後の地力回復ができるようになった。その結果得られた余剰作物は家畜の上質な飼料になり、飼育頭数が増え、畜産も放牧から舎飼いへと移行。これら「農業革命」と呼ばれる明らかな構造変化は、石炭の利用やさまざまな分野での技術革新を伴う「産業革命」とともに世界中に広がり、今日の人類の繁栄の礎を築いていった。

そして現在。2000年以降になり、IT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)が農業分野でも活用が拡大、第二の農業革命が起ころうとしている。

畜産分野では畜舎の環境モニタリングセンサーと冷房装置システムとの連携はもとより、牛や豚などにセンサーを取り付け、莫大な行動記録をビッグデータとして病気やケガ、発情などの状態を確認できるIoT農業が一般化しはじめた。

特に単価の高い牛は、配合飼料や薬の効果などを見極めることが必要で、牛に飲み込ませることで牛の体内から健康チェックを行う機器も現れた。

農業の担い手不足へのアプローチとしては、トラクターにGPS連動の自動操舵装置を設置し、位置情報を把握することで、広大な農地の耕作をサポート、機能がバンドルされた新車を買うことなく、既存のトラクターに後付け可能な高精度測位システムと自動運転支援システムも開発されている。ビニールハウスなどの水田全体をモニタリングし、センサーが自動収集したデータをウェブ上の専用ダッシュボードに送信。農場主はスマートフォンからアクセスし、いつでも状況を把握できるようになった。それと同時に、あらゆる条件下で得られた莫大な蓄積データをビッグデータとしてAIが解析し、防除や施肥のタイミングなどさまざまな予測を立てられるようにもなった。

 衛生的な都市型の植物工場も稼働を始めた。IoTの技術をフル活用し、収集データを制御システムと連携させることで灌水や施肥、環境制御などを全て自動化。屋内なので天候や害
虫などの外的要因に左右されることもなく、生育環境を人工的にコントロール。現在は作物の種類も限定的だが、今後、あらゆる植物を栽培・収穫できるようになるかもしれない。

未来都市(メトロポリス)のIT農業へ

そんな希望に満ちたように思える農業だが、実際には解決しなければいけない課題が山積している。一つは、2050年頃に人口100億人を突破すると見られる地球全体の食糧生産力という課題。特に畜産によって得られるタンパク質が2030年には供給不足になるという試算もある。

一つの方向性として注目されているのがコオロギなどを主にした「昆虫食」。100gあたりのタンパク質量は60gで、これは牛・豚・鳥の約3倍。カルシウムやオメガ3系脂質などの栄養素も豊富だ。生育過程の環境負荷が低いのも特徴で、タンパク質1kgを生産するのに必要な飼料量は豚肉を100として比較すると約34%、水量は0.1%。さらに、二酸化炭素の排出量は9%に抑えられるという。水産養殖(Aquaculture)と水耕栽培(Hydroponics)を組み合わせたアクアポニックスも注目されている。

 これは淡水魚と野菜を同時に育てることで、持続可能な循環型農業システムを実現したもので農産物と水産物を同時に得られる。育てた野菜は、土壌栽培のように雑草も生えず害虫も付きにくいため、除草剤や殺虫剤を使用せずに育てられる。淡水魚の養殖も、常に浄化した水を水槽へ送っているため水を交換する手間もなくなり、排出された魚のふんは野菜の栄養分として吸収され、化学肥料も不要に。これらを実現したのは、多くの数値をモニタリングし、コントロールする多くのセンサーやIoT機器の進化だ。

次に解決しなければならないのは、農業従事者の減少への対応だ。特に日本のような人口減少に伴う農業従事者減に対しては、仕組みとしての集落営農から法人化へ移行するとともに、市場情報や消費者嗜好などのビッグデータに基づく「AI営農計画の立案と実施」が有効と言える。全国的な需給を予想し、確実に売れるものを作ることが可能になり、IoTやロボティクスを活用した従事者負担の軽減が生きてくる。

さらに、農産物をそのまま出荷するのではなく、生産から加工、商品化からEC販売までを一貫して行う「6次産業化+(プラス)の取り組み」がより一般的マネタイズ手法として浸透していく必要があるだろう。このEC販売には、海外への直接売買といった越境ECを含む。質が高い日本の農産物を高価値化し、潤沢な生産量を背景に大口輸出に乗り出し、世界中の外貨を獲得するという「農業輸出大国」への転換だ。また、これらの蓄積で得たノウハウそのものを販売するという道筋もある。

 確かに課題は山積みだ。だが、課題を解決した先にある未来には、明るい光が差し込むようにも見える。そのためにはIT・IoT技術を使いこなすITエンジニアの底上げと、アイデアと志のあるスタートアップ起業家の新たな提案を受け入れる、柔軟な発想に基づくかじ取りと官民学の連携が今以上に重要になってくるだろう。


本記事はD’s TALK Vol.53の掲載コンテンツです。
その他の掲載コンテンツは下記のページからご覧ください。
https://www.daiko-xtech.co.jp/daiko-plus/ds-talk/vol-53/


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