
テレワークの広まりに伴い、あらゆる情報のデータ化・電子化が加速しています。場所に捉われない働き方を実現する上でも、ペーパーレス化は重要なキーファクターになりつつあるのです。しかしながら、取引先とやり取りを行う契約書類は、簡単に電子化できないことも事実。
そこで今回は、その実現の肝になる「電子契約システム」を活用するポイントや懸念点について解説します。
目次
電子契約とは
電子契約とは、従来の紙ベースの契約書に代わり、インターネット上で電子文書を用いて当事者間の合意を成立させる仕組みです。
具体的には、PDFなどの電子データ上で契約内容を確認し、当事者双方が電子署名やタイムスタンプを付与することで契約が締結されます。
近年では、業務のデジタル化や働き方改革、DX推進の流れを受けて、多くの企業が電子契約の導入を進めています。
紙の契約書との違い
紙の契約書と電子契約の違いは、契約締結のプロセスと管理方法にあります。
紙の契約では、書類を印刷・郵送し、相手方が署名・押印して返送する必要があるため、数日から数週間の時間を要します。
また、以下のような課題も存在します。
- 紛失・劣化・破損のリスク:大量の紙書類を保管する過程で、どこに何があるか把握しづらくなり、物理的な劣化も避けられない
- 契約期限の把握困難:有効期間や納期を書類ごとに確認する作業が煩雑で、紙とデータの二重管理が発生することもある
- 情報漏えいの危険性:悪意のある第三者による盗み見や契約書ごとの持ち出しといったリスクを完全に防ぐことが困難
- 保管コストの増大:複数年にわたる事業展開でオフィススペースを圧迫し、賃料や管理費用が増加
一方、電子契約ではオンライン上で即座に契約内容を確認でき、電子署名により締結が完了するため、大幅な時間短縮とコスト削減が実現されます。
PDFとの違い
電子契約と単なるPDF送付には、法的証拠力と管理体制の面で大きな違いがあります。
PDF契約書をメールで送付して双方が合意すれば契約自体は成立しますが、本人性や非改ざん性を技術的に証明する仕組みが備わっていないため、紛争時の立証負担が重くなります。
これに対して電子契約では、電子署名とタイムスタンプの付与により、署名者本人の情報と契約内容を暗号化して結びつけ、改ざんされていないことを技術的に証明します。
電子署名法における推定効が働き、裁判などでも紙の契約書と同等の法的効力が認められます。
電子化できる対象書類
電子契約システムで取り扱える書類は、基本契約書だけにとどまりません。以下のような幅広い取引関連書類が電子化の対象です。
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項目 |
対象書類の例 |
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基本契約関連 |
取引基本契約書、業務委託契約書、秘密保持契約書(NDA) |
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取引関連書類 |
見積書、注文書、注文請書、発注書、検収書 |
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財務・経理関連 |
請求書、領収書、納品書 |
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人事・労務関連 |
雇用契約書、労働条件通知書、入社誓約書 |
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その他 |
業務請負契約書、代理店契約書、保証契約書 |
特に見積書や注文書、請求書といった日常的に発生する取引関連書類を電子化することで、契約締結だけでなく、受発注から支払いまでの一連の業務プロセス全体を効率化できます。
電子契約システムの導入メリットは
近年では、ブロックチェーン技術を活用した電子契約サービスも登場しています。
FAXやメールでPDFファイルを送付する契約形態と比較して、法的な証拠力や社内ガバナンス・保管の観点で電子契約システムに大きな優位性があります。
電子契約システムを導入する具体的なメリットとしては、以下の7点が挙げられます。
紙が不要、郵送費がかからずコストを削減できる
電子契約システムを利用すれば、紙の契約書で必要とされていたインク代、製本テープ代、印刷代、切手代などのコストがすべて不要に。消耗品に要する費用を削減することで、コスト削減が期待できます。
手続きの簡略化により業務効率がUP
紙の契約書で必要とされていたオフィス内での契約書類の承認における回送業務や、業務場所を制限されるハンコの利用を電子化で削減することにより、業務効率が向上します。
手続きを簡素化することによって、契約スピードのアップや受注の早期化といった二次的メリットも期待できます。
セキュリティリスクを軽減できる
PDFやExcelファイルを使用した契約ではデータの変更・改ざんが懸念されますが、電子契約システムにおける情報セキュリティ対策を行うことで大部分は回避できます。
また、契約書の内容に関しても、「タイムスタンプ(電子署名)」を電子データの契約書に付与することで、契約ファイルの内容を変更・改ざんできなくなります。
ここでいうタイムスタンプとは、PDFファイルに付与することでそのデータが「特定の日時に存在していたこと」と「その日時以降に変更・改ざんされていないこと」を証明する技術です。
タイムスタンプが付与されることで、それ以降は変更・改ざんされていないことを証明することが可能です。
テレワークの導入を推進できる
電子契約システムは、働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れの中でテレワークの定着を支える重要な基盤となっています。
すでに多くの企業でテレワークが導入されている現在でも、契約関連業務のために出社せざるを得ない従業員が少なくありません。
電子契約を導入することで、契約書の作成から承認、締結までのプロセスをすべてオンライン上で完結できるため、場所を問わない柔軟な働き方が実現できます。
保管スペースが不要になる
紙の契約書管理では、複数年にわたって蓄積される膨大な書類を保管するために、専用のキャビネットや倉庫スペースが必要でした。
企業規模が大きくなるほど保管コストがかさみ、オフィス賃料の圧迫要因となります。
電子契約では、すべての契約データがクラウド上に保存されるため、物理的な保管場所は一切不要です。
また、検索機能やタグ機能によって必要な契約書を瞬時に見つけられるため、紙書類の探索に費やしていた時間も削減できます。
契約更新・解約手続きがスムーズに進む
契約書を電子管理することで、契約期限や更新時期を自動通知する機能が利用できます。
紙の契約では期限管理が煩雑で、契約満了や更新漏れのリスクがありました。
しかし、電子契約システムではアラート機能により事前に担当者へ通知されるため、適切なタイミングで更新・解約の判断が行えます。
さらに、契約ステータスの可視化により、現在進行中の契約や締結済みの契約を一覧で把握でき、組織全体のガバナンス強化にもつながります。
承認ワークフローの電子化でガバナンスを強化できる
電子契約システムでは、契約書の申請から承認、決裁までのワークフローを電子化し、一連のプロセスをシステム上で完結できます。
複雑な承認ルートも柔軟に設計でき、契約金額や契約種別に応じて自動的に適切な承認者へ回付される仕組みが構築可能です。
また、特定の役職者や部門に承認権限を付与することで、未承認書類の誤送信や不正な契約締結を防止し、企業ガバナンスが強化されます。
さらに、リアルタイムでの進捗確認も大きなメリットです。誰が承認済みで、どの段階で止まっているのかが一目で把握できるため、承認の遅延を早期に発見してフォローアップができます。
電子契約システム導入における懸念点
多くのメリットがある電子契約システムですが、導入検討時期の調整に難しい側面もあります。よくある懸念点が次の3つです。
社内調整が難しい
1つ目の懸念点として多いのが「社内調整」に関する負荷です。契約プロセスが複数部門にまたがる場合、従来の手続きや承認フローの変更に対する不安や、現場業務への影響が見えにくいことが理由として挙げられます。
これに対しては、①現行業務とのギャップを可視化した上で段階的な移行計画を策定すること、②法務・情報システム・現場部門を巻き込んだ早期検討体制を整えること、③試験運用により業務影響を最小化し、実例をもって社内の理解を促すことが有効です。
これにより合意形成が円滑になり、スムーズな導入が可能となります。
システム導入前の契約書・業務フローの見直しが面倒
2つ目は、業務フローの見直しを通常業務と並行して行う必要がある点です。電子契約システムを導入する際には、現在の契約業務フローの可視化や課題の洗い出しが必要となります。
契約書のフォーマット、承認ルート、保管方法など、紙を前提とした運用を電子契約に適合した形式へ変更しなければならず、「どこから手をつければ良いかわからない」「見直しが面倒であるため、現状維持で構わない」といった考えに至る担当者も少なくありません。
しかし、専門的な導入前コンサルティングを提供するサービスを活用すれば、この懸念点を大きく軽減できます。
専門チームが対象となる帳票や契約書を精査し、業務フローを整理したうえで最適なシステム導入を支援するため、電子契約サービスの導入を通じて最適な業務フローの実現が可能となります。
取引先の理解が必要
3つ目は、「取引先展開」がよく挙げられます。取引先側のシステム利用可否やITリテラシー、既存フローの変更に対する抵抗感などが導入を妨げる要因となります。
これに対しては、①取引先が追加費用なしで利用できる仕組みの提示、②紙との併用期間を設けた段階的な移行、③操作説明書や動画などのサポート資料の整備、④主要取引先への先行トライアル実施により成功事例を作ることが効果的です。
これらにより取引先の心理的・業務的ハードルを下げ、円滑な展開を実現できます。
電子契約導入における注意点
電子契約システムを導入する際には、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。事前に把握しておくことで、導入後のトラブルを回避し、スムーズな運用が可能になります。
以下のような注意点に注意しましょう。
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注意点 |
内容 |
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電子化できない契約の確認 |
定期借地契約や定期建物賃貸借契約など、法律で書面交付が義務付けられている契約は電子化できません |
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取引先の対応可否 |
すべての取引先が電子契約に対応できるとは限らないため、紙契約との併用体制を整える必要があります |
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システムの法的要件確認 |
電子帳簿保存法や電子署名法の要件を満たすシステムかどうか事前に確認が必要です |
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セキュリティ体制の構築 |
アクセス権限の設定、二段階認証の導入、監査ログの保管など適切なセキュリティ対策が不可欠です |
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既存契約書の管理方法 |
導入前の紙契約書をどう管理するか、電子化するか保管するかを事前に決定しておく必要があります |
電子契約に関連する主な法律
電子契約を適切に運用するには、関連する法律の理解が不可欠です。
ここでは、電子契約に関わる主要な3つの法律について解説します。
電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)
電子署名法は、電子署名が手書きの署名や押印と同等の法的効力を持つことを定めた法律です。
本人性の確認と非改ざん性が技術的に保証されている電子署名には、民事訴訟法上の推定効が認められます。
これにより、電子契約が紙の契約と同等の証拠力を持つ法的基盤が整備されています。
e-文書法(電子文書法)
e-文書法は、従来紙での保存が義務付けられていた文書の電子保存を認める法律です。
契約書や請求書、領収書など多くの文書を電子データとして保管できるようになり、企業のペーパーレス化を法的に後押ししています。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存する際の要件を定めた法律です。
2024年の改正により、電子取引データの保存が完全義務化され、検索機能の確保やタイムスタンプの要件などが厳格化されました。
特筆すべき点として、適切な電子契約システムを導入すれば、導入企業だけでなく取引先も自動的に電帳法対応の対象となる点です。
取引先側で電帳法対応のための追加作業が不要となるため、契約締結の手間が削減され、電子契約への参加率向上につながります。
これは取引先の負担軽減と同時に、自社のEDI(電子データ交換)加入率を高め、業務効率化の効果を最大化する重要な機能です。
導入から運用・運営すべて代行|電子契約サービスのご紹介
今回ご紹介したように、電子契約システムには多くのメリットがあるものの、導入開始までのハードルが多いことも事実です。だからこそ、導入前に業務フローの見直しを行ったり、業務分析に基づく各種リスクへの対応策を予め講じたりすることが欠かせません。
DAIKO XTECHが提供する電子契約サービス「DD-CONNECT」は、電子契約システムの導⼊、検討⽀援、運⽤⽀援、サポートまでをセット化したサービスです。電子契約の信⽤とサービス運⽤の安定を第⼀に考え、日鉄ソリューションズの「CONTRACTHUB@absonne」を基盤としており、これまでにも多くの導入実績を有しています。
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