OTセキュリティとは?最新事例とガイドラインを踏まえた対策を解説

工場のスマート化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む現代において、生産ラインや重要インフラを制御するOT(Operational Technology)システムのセキュリティが、企業の事業継続を左右する重要な経営課題となっています。かつては独立していたOT環境がITネットワークと接続されることで、サイバー攻撃の脅威にさらされるようになりました。本記事では、OTセキュリティの基本から、なぜ今対策が必要なのか、そして具体的にどのようなステップで導入・運用すればよいのかを、最新の被害事例や主要なガイドラインを踏まえて網羅的に解説します

目次

OTセキュリティとは?なぜ今、注目されているのか?

OTセキュリティは、工場の安定稼働と社会インフラを守るために不可欠な対策であり、ITとは異なる独自の視点が求められます。近年、製造業や重要インフラを狙ったサイバー攻撃が深刻化しており、その重要性はかつてないほど高まっています。ここでは、OTセキュリティの基本的な定義から、ITセキュリティとの違い、そして現代社会で注目される背景について掘り下げていきます。

OTセキュリティとITセキュリティとの違い

OTセキュリティとは、工場やプラント、電力、ガス、水道といった社会インフラの安定稼働を支えるOperational Technology(OT)システムを、サイバー攻撃や予期せぬ停止から守るためのセキュリティ対策全般を指します。OTとは、物理的なプロセスを直接監視・制御するための技術やシステムの総称です。具体的には、PLC(Programmable Logic Controller)やSCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)といった産業用制御システム(ICS)が含まれます。このOTの概念を理解することが、セキュリティ対策を考える上での第一歩となります。

一方で、多くの企業がすでに取り組んでいるIT(Information Technology)セキュリティは、サーバやPC、業務システムなどの情報資産を保護することを目的としています。OTセキュリティとITセキュリティは、守るべき対象だけでなく、優先されるべき価値観が根本的に異なります。この「OTセキュリティとITセキュリティの違い」を理解することが、適切な対策を講じる上で極めて重要です。

ITセキュリティがCIA(機密性・完全性・可用性)の順で機密性を最も重視するのに対し、OTセキュリティはAIC(可用性・完全性・機密性)の順で、システムの継続的な稼働、つまり可用性を最優先します。

自動車工場を例にすると、システムがわずか1分止まるだけで数百万の損害や部品の破損が発生します。そのため、セキュリティ強化目的であっても「システムを止める」ことは許されないのがOTの特徴です。

IoTとOTの違いもシンプルです。IoTは「スマホでエアコンを操作する」といったモノをネットに繋ぐ広い仕組み全般を指します。一方のOTは、「工場のロボットを0.1ミリのズレなく動かす」といった物理的な機械の制御に特化した技術です。つまり、あらゆるモノを繋ぐ大きな枠組み(IoT)の中に、現場の機械を安全に動かし続ける専門領域(OT)が含まれている、という関係になります。

比較項目OTセキュリティITセキュリティ
最優先事項可用性 (Availability)システムの24時間365日の安定稼働機密性 (Confidentiality)情報の不正アクセス防止
保護対象物理的なプロセス、生産設備、制御システム (PLC, SCADA)データ、情報資産、サーバ、PC、ネットワーク
システム寿命長い(10年~20年以上)短い(3年~5年)
パッチ適用システムの停止が困難なため、計画的な適用が必要定期的に、速やかに適用されることが一般的
ネットワーク独自プロトコルが多く、リアルタイム性が要求される標準的なTCP/IPプロトコルが中心
影響範囲物理的な損害、生産停止、人命への影響、環境汚染情報漏えい、金銭的損失、ブランドイメージの低下

OTシステムが抱える固有の脆弱性とサイバーリスク

OTシステムは、その特性からITシステムとは異なる固有の脆弱性を抱えています。最も大きな課題の一つが、システムのライフサイクルの長さです。10年、20年と稼働し続ける設備も珍しくなく、サポートが終了したレガシーOS(Windows XPなど)が現役で稼働しているケースが散見されます。このようなシステムは、既知の脆弱性に対するセキュリティパッチが提供されず、攻撃者にとって格好の標的となります。

また、OTシステムは安定稼働を最優先するため、セキュリティパッチの適用やアンチウイルスソフトの導入がシステムの動作に影響を与えることを懸念し、対策が先送りされがちです。さらに、物理的なアクセス管理がIT環境ほど厳密でない場合も多く、作業員を装った人物によるUSBメモリ経由でのマルウェア感染といったリスクも存在します。これらの脆弱性は、生産ラインの停止、製品品質の低下、製造ノウハウといった機密情報の漏えい、さらには物理的な破壊活動といった深刻なサイバーリスクに直結します。

OTセキュリティが今、求められる背景と社会的影響

なぜ今、これほどまでにOTセキュリティが重要視されているのでしょうか。その最大の背景は、DXやスマートファクトリー化の進展によるITとOTの融合です。

従来、OTネットワークは外部から隔離された「閉域網(クローズドな環境)」として安全に運用されてきました。しかし、IoTの導入やDX推進に伴いITネットワークとの接続が進み、さらにデータ利活用のためのクラウド利用や、リモート監視・予防保全のためのVPN利用が急速に拡大しました。その結果、外部との接点が多様化し、特にVPNの脆弱性を狙った侵入をはじめ、サイバー攻撃の経路が大幅に増加しています。

実際に、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織部門において「ランサムウェアによる被害」が1位、「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」が2位となっており、製造業などを狙った攻撃が深刻化していることが示されています。

ひとたび工場がサイバー攻撃を受ければ、その影響は一企業に留まりません。部品供給が滞ればサプライチェーン全体が麻痺し、電力やガス、水道といった重要インフラが停止すれば、社会活動そのものが大きな打撃を受けます。OTセキュリティは、もはや一企業の課題ではなく、社会全体の安全と安定を維持するための重要な基盤となっているのです。

参照:情報セキュリティ10大脅威2026 (IPA)

放置するとどうなる?OTシステムへのサイバー攻撃がもたらす深刻な被害事例

OTシステムへのサイバー攻撃は、単なるデータ損失に留まらず、生産ラインの停止による巨額の経済的損失や、人命に関わる重大事故に直結する可能性があります。机上の空論ではなく、現実に世界中で深刻な被害が発生していることを理解することが、対策の第一歩です。ここでは、具体的な被害事例を通じて、OTセキュリティ対策を怠った場合のリスクを明らかにします。

生産ライン停止による甚大な損害事例

OTシステムへのサイバー攻撃で最も直接的かつ甚大な被害ha

、生産ラインの停止です。特にランサムウェア攻撃は、制御システムや生産管理システムを暗号化して使用不能にし、工場の操業を完全にストップさせてしまいます。復旧には多大な時間とコストがかかり、その間の生産機会の損失は計り知れません。

OTシステムへのサイバー攻撃による主な被害と影響

被害の種類具体的な影響関連リスク
生産ライン停止操業停止、巨額の経済的損失、サプライチェーンへの影響事業継続性の危機
機密情報漏えい競争力低下、ブランドイメージ毀損、法的責任企業価値の低下
人命に関わる事故爆発・火災、有毒ガス漏洩、健康被害社会的信頼の失墜

記憶に新しいのは、2022年に発生した国内大手自動車部品メーカーへのサイバー攻撃です。この攻撃により、同社の国内全工場の稼働が停止に追い込まれました。さらに、部品供給が滞った影響で、取引先である大手自動車メーカーも国内14カ所の全工場の稼働を停止せざるを得ない事態に陥りました[2]。この一件は、サプライチェーンの一角への攻撃が、業界全体にいかに甚大な影響を及ぼすかを浮き彫りにしました。被害額は数百億円規模に上るとも言われており、OTセキュリティが事業継続計画(BCP)の中核をなすことを示唆しています。

機密情報漏えいと企業ブランド毀損のリスク

サイバー攻撃の目的は、操業妨害だけではありません。OT環境には、製品の設計図、製造プロセスのノウハウ、独自の配合レシピといった、企業の競争力の源泉となる機密情報が数多く存在します。攻撃者はこれらの情報を窃取し、競合他社に売却したり、ダークウェブ上で公開したりすることで利益を得ようとします。

万が一、このような機密情報が漏えいすれば、企業は技術的な優位性を失い、長期的な競争力に深刻なダメージを受けます。さらに、情報漏えいや生産停止といった事態は、ニュースとして大々的に報道されることが多く、企業の社会的信用やブランドイメージを著しく毀損します。取引先やお客さまからの信頼を失い、株価の下落や契約の打ち切りにつながるケースも少なくありません。一度損なわれた信頼を回復するのは、決して容易なことではありません。

人命に関わる事故につながる可能性

OTシステムへのサイバー攻撃がもたらす最も恐ろしいリスクは、人命に関わる重大な事故を引き起こす可能性です。化学プラントや製鉄所、発電所といった施設では、温度、圧力、流量などがコンピュータシステムによって厳密に制御されています。もし攻撃者がこれらの制御システムに侵入し、パラメータを不正に書き換えた場合、爆発や火災、有毒ガスの漏洩といった大惨事につながる恐れがあります。

実際に、2021年には米国フロリダ州の浄水場で、何者かが遠隔操作システムに侵入し、水道水に含まれる水酸化ナトリウムの濃度を危険なレベルまで引き上げようとする事件が発生しました。幸い、オペレーターが異常に気づき、すぐさま修正したため実害は免れましたが、一歩間違えば多くの住民の健康を脅かす大事件になっていました。この事例は、OTセキュリティが、もはやサイバー空間だけの問題ではなく、私たちの物理的な安全を直接的に脅かす現実的な脅威であることを明確に示しています

OTシステムを守る!効果的なOTセキュリティ対策の5つの柱

効果的なOTセキュリティ対策は、物理的な防御からネットワーク、システム、人、そしてインシデント対応体制までを網羅する多層的なアプローチが不可欠です。どれか一つだけを実施すれば万全ということはなく、複数の対策を組み合わせて防御壁を厚くすることが重要です。ここでは、OTシステムをサイバー攻撃から守るための基本となる「5つの柱」について解説します。

参考:「半導体デバイス工場におけるOTセキュリティガイドライン」概要資料(経済産業省)

物理的セキュリティとアクセスコントロールの徹底

サイバー攻撃というとネットワーク経由の侵入を想像しがちですが、物理的な侵入も重大な脅威です。制御室やサーバ室への不正な立ち入りを防ぐため、監視カメラの設置、ICカードや生体認証による入退室管理システムの導入といった物理的なセキュリティ対策が第一歩となります。部外者はもちろん、権限のない従業員の立ち入りも厳しく制限する必要があります。

効果的なOTセキュリティ対策の5つの柱と概要

対策の柱概要期待される効果
ネットワーク分離IT/OT間のネットワークを物理的・論理的に分離し、攻撃経路を遮断攻撃の拡散防止、OT環境の保護
脆弱性管理OTシステムの脆弱性を特定し、パッチ適用や代替策でリスクを低減既知の攻撃からの防御、システム堅牢化
異常検知・監視OTネットワーク内の不審な通信や挙動をリアルタイムで検知・分析早期発見、被害拡大の抑制
物理的対策制御システムへの物理的アクセスを制限し、不正な操作や持ち込みを防止物理的な破壊・改ざん防止
人材教育・組織体制OT/IT部門間の連携強化、従業員へのセキュリティ意識向上教育ヒューマンエラーの低減、迅速な対応

また、保守作業などを目的として持ち込まれるUSBメモリやノートPCが、マルウェアの侵入経路となるケースも後を絶ちません。持ち込みデバイスのルールを策定し、ウイルスチェックを義務付ける、あるいは許可されたデバイス以外は接続できないようにポートを制御する、といったアクセスコントロールの徹底が求められます。

ネットワーク分離と境界防御の強化

OTセキュリティの基本原則として広く知られているのが、ITネットワークとOTネットワークの分離(セグメンテーション)です。たとえIT側のネットワークがマルウェアに感染したとしても、OTネットワークが分離されていれば、被害が生産ラインにまで及ぶのを防ぐことができます。産業用制御システムのセキュリティモデルである「Purdueモデル」に基づき、ネットワークを階層的に分離し、各階層間の通信をファイアウォールで厳密に制御することが理想的です。

境界部分には、産業用プロトコル(Modbus, PROFINETなど)を理解し、不正な通信を検知・遮断できるOT向けのファイアウォールやIDS/IPS(侵入検知・防御システム)を設置することで、防御をさらに強化できます。これにより、外部からの脅威がOT環境の心臓部に到達するのを水際で防ぎます。

脆弱性管理とパッチ適用サイクルの確立

OT環境の機器やソフトウェアに存在する脆弱性は、攻撃者にとっての侵入口となります。これらの脆弱性を放置しないためには、まず自社のOT環境にどのような資産(デバイス、OS、ソフトウェア)が存在するのかを正確に把握し、資産管理台帳を整備することが不可欠です。その上で、各資産に存在する脆弱性情報を収集・評価し、リスクの高いものから優先的に対策を講じる脆弱性管理のプロセスを確立する必要があります。

ただし、前述の通りOT環境ではシステムの停止が難しく、パッチの適用が容易ではありません。そのため、パッチ適用がすぐにできない場合には、仮想パッチ(IPSの機能で脆弱性を狙った攻撃通信をブロックする技術)や、ネットワーク分離によるリスクの低減といった代替策を組み合わせることが現実的なアプローチとなります。

異常検知とインシデントレスポンス体制の構築

どれだけ防御を固めても、攻撃の侵入を100%防ぐことは不可能です。そのため、侵入されることを前提として、攻撃の兆候を早期に検知し、迅速に対応する体制を構築しておくことが極めて重要になります。OTネットワーク内の通信を常時監視し、普段とは異なる不審な挙動(未知のデバイスからのアクセス、通常使用しないプロトコルでの通信など)をAIなどを活用して検知するソリューションが有効です。これにより、被害が拡大する前に攻撃の芽を摘むことができます。

万が一、セキュリティインシデントが発生した場合に備え、あらかじめ対応手順を定めたインシデントレスポンス計画を策定しておくことも不可欠です。誰が指揮を執り、誰に連絡し、どのような手順でシステムを復旧させるのかを明確にしておくことで、混乱を最小限に抑え、迅速な復旧が可能になります。

従業員へのセキュリティ意識向上教育

巧妙化するサイバー攻撃において、最大の脆弱性は「人」であると言われることがあります。標的型攻撃メールの添付ファイルを開いてしまったり、安易なパスワードを使い続けたりといったヒューマンエラーが、大規模なセキュリティインシデントの引き金になることは少なくありません。特にIT部門だけでなく、工場現場で働くOT部門の従業員に対しても、OTセキュリティの重要性を理解してもらうことが重要です。

定期的なセキュリティ教育や、標的型攻撃メールを想定した訓練を実施することで、従業員一人ひとりのセキュリティ意識を高め、組織全体の防御力を底上げすることができます。「不審なメールは開かない」「パスワードは適切に管理する」「不審な事象を発見したらすぐに報告する」といった基本的なルールを徹底させることが、効果的な対策の土台となります。

OTセキュリティ導入で失敗しないための実践ロードマップ

OTセキュリティの導入成功は、現状の正確な把握から始まり、リスクに基づいた優先順位付けと、導入後の継続的な改善プロセスを計画的に実行することが鍵となります。やみくもに対策を始めても、効果が薄いばかりか、現場の混乱を招きかねません。ここでは、失敗しないための実践的なロードマップを4つのステップで解説します。

現状のOTシステム診断とリスクアセスメント

対策の第一歩は、敵(リスク)と己(自社の環境)を知ることです。まずは、自社のOT環境にどのような資産が存在するのかを可視化することから始めます。どのメーカーのPLCが何台あり、どのバージョンのOSで動いているのか、ネットワークはどのように構成されているのか、といった情報を棚卸しします。専用の資産可視化ツールを使えば、ネットワークに接続されているデバイスを自動的に洗い出し、効率的に資産台帳を作成できます。

次に、可視化された資産に対してリスクアセスメント(リスク評価)を実施します。それぞれの資産が抱える脆弱性は何か、どのような攻撃を受ける可能性があるか、そして攻撃が成功した場合に事業にどのような影響(生産停止、品質低下など)が及ぶかを評価します。この評価を通じて、守るべき重要な資産と、優先的に対策すべきリスクが明確になります。

対策方針の策定と優先順位付け

リスクアセスメントの結果に基づき、具体的な対策方針を策定します。すべてのリスクに一度に対応することは現実的ではないため、「事業への影響度」と「発生可能性」の2つの軸でリスクを評価し、優先順位を付けることが重要です。例えば、「影響は甚大だが発生可能性は低いリスク」よりも、「影響は中程度だが明日にも発生しうるリスク」を優先して対策するといった判断が必要になります。

策定した対策は、「短期」「中期」「長期」の実行計画に落とし込みます。例えば、短期的には従業員教育やパスワード強化といったすぐに着手できる対策を実施し、中期的にはネットワーク分離や監視システムの導入、長期的にはレガシーシステムの刷新といった計画を立てることで、着実に対策を進めることができます。

導入するソリューションの選定とベンダー連携

これらは、機能面だけでなく運用や戦略的な観点を含めた包括的な評価軸となります。OTセキュリティソリューション選定のための主要基準をご紹介します。

・OT環境への技術的理解と対応力

産業用プロトコルへの対応: 工場特有の通信プロトコル(Modbus, PROFINETなど)を正しく理解し、不正通信を検知・遮断できるか。

レガシーシステムへの理解: 長期稼働が前提の古いOSや、パッチ適用が困難なレガシー機器に対し、仮想パッチやネットワーク分離といった現実的な代替策を提示できるか。

自社設備との親和性: 現在使用しているFA(Factory Automation)機器や産業用制御システムとの相性が良く、現場の安定稼働を妨げない設計が可能か。

・運用・保守・監視サポートの充実度

導入後の継続的な運用体制: ソリューション導入後の運用・監視体制をどう支えるか(24時間365日のSOCサービスや、インシデント発生時の迅速な対応支援など)。

網羅的なサポート範囲: 可視化から脅威検知、インシデント対応までをワンストップで提供可能か、あるいは必要な機能のみを組み合わせられるかといった提供形態の柔軟性。

・戦略立案・コンサルティング能力

リスクアセスメントの専門性: 資産の棚卸や脆弱性診断、リスク評価など、対策の前提となる上流工程を専門的な知見から支援できるか。

ポリシー策定支援: 技術的なツール導入だけでなく、現場のルールづくりやセキュリティポリシーの策定まで伴走できるか。

・統合管理と拡張性

IT/OT統合管理の視点: 既存のITセキュリティ製品との連携や、ネットワークインフラ全体の統合管理が可能か(IT・OT両環境を俯瞰したセキュリティ基盤が築けるか)。

導入後の運用・監視体制と継続的な改善

OTセキュリティは、ソリューションを導入して終わりではありません。むしろ、そこからが本当のスタートです。新たな脅威は次々と出現するため、導入したシステムを適切に運用し、常に監視し続ける体制を構築する必要があります。セキュリティ機器から発せられるアラートを24時間365日監視し、インシデント発生時には迅速に対応できるSOC(Security Operation Center)のような専門チームの設置や、外部の監視サービスの利用が有効です。

また、定期的に脆弱性診断やペネトレーションテスト(侵入テスト)を実施し、自社の防御態勢に新たな穴がないかを確認することも重要です。これらの活動を通じて得られた知見をもとに、セキュリティ対策を見直し、改善していくPDCAサイクルを回し続けることで、持続的に安全なOT環境を維持することが可能になります。

OTセキュリティを強化するための成功ポイント

OTセキュリティ対策を組織に根付かせ成功させるためには、経営層の強力なリーダーシップ、部門間の壁を越えた連携、そして外部専門家の知見を活用する戦略的な視点が不可欠です。技術的な対策だけでなく、組織的な取り組みが成否を分けます。ここでは、専門家の視点から見た3つの成功のポイントを解説します。

経営層の理解とコミットメントの重要性

OTセキュリティ対策を全社的に推進するためには、経営層の深い理解と強力なコミットメントが何よりも重要です。OTセキュリティは、現場部門やIT部門だけの問題ではありません。サイバー攻撃による生産停止は、企業の売上や利益に直接的な打撃を与え、事業継続そのものを脅かす経営リスクです。経営層がこのリスクを正しく認識し、OTセキュリティを単なるコストではなく、未来の事業を守るための「戦略的投資」として位置づける必要があります。

経営層のコミットメントがあれば、必要な予算の確保や、部門間の利害調整がスムーズに進みます。トップが「OTセキュリティは最重要課題である」という明確なメッセージを発信することで、全社的な意識が高まり、対策が加速します。逆に、経営層の理解が得られなければ、現場がどれだけ危機感を訴えても、対策は中途半端なものに終わってしまうでしょう。

IT部門とOT部門の連携を強化する

OTセキュリティの推進において、しばしば壁となるのがIT部門とOT部門の連携です。前述の通り、両部門は文化も優先順位も大きく異なります。IT部門はセキュリティの専門知識を持つ一方で、OTシステムの特性や安定稼働への影響を理解しきれていないことがあります。逆にOT部門は現場のシステムには精通していますが、最新のサイバー脅威に関する知識が不足している場合があります。

この溝を埋めるためには、両部門が互いの領域を尊重し、共通の目標に向かって協力する体制を構築することが不可欠です。具体的には、合同でリスクアセスメントを実施したり、定期的な勉強会を開催して知識を共有したりすることが有効です。また、セキュリティインシデント発生時の役割分担と責任の所在をあらかじめ明確にしておくことで、いざという時にスムーズな連携が可能になります。両部門の橋渡し役となる人材を育成・配置することも、連携を促進する上で効果的な一手です。

セキュリティ専門家とのパートナーシップ活用

OTセキュリティは非常に専門性が高い分野であり、すべての企業が自社内に十分な知識とスキルを持つ人材を抱えているわけではありません。特に、OT環境に精通したセキュリティ人材は市場でも希少であり、求人を出してもなかなか確保が難しいのが実情です。また、関連する「OTセキュリティ資格」を持つ専門家も限られています。

このような状況下では、自社リソースだけですべてを賄おうとせず、外部の専門家の知見を積極的に活用することが成功への近道です。前述したような専門ベンダーが提供するコンサルティングサービスを利用して、現状評価や対策計画の策定を支援してもらったり、SOC(Security Operation Center)サービスを利用して24時間365日の監視を委託したりすることは、非常に有効な選択肢です。信頼できるパートナーと長期的な関係を築くことで、常に最新の脅威情報に基づいた高度なセキュリティレベルを維持することが可能になります。

OTセキュリティに関するよくある質問

「OT」とはどういう意味ですか?

OTとは、Operational Technology(オペレーショナル・テクノロジー)の略で、工場やプラント、電力・ガス・水道などの社会インフラにおいて、物理的なプロセスを直接監視・制御するための技術やシステムの総称です。具体的には、PLCやSCADAといった産業用制御システムが含まれます。

ITセキュリティとOTセキュリティの違いは何ですか?

ITセキュリティが情報資産の機密性を最優先するのに対し、OTセキュリティは工場の生産ラインやインフラシステムの安定稼働、すなわち可用性を最優先します。また、保護対象がITはデータや情報資産であるのに対し、OTは物理的な設備や制御システムである点も大きく異なります。

OTセキュリティ対策をしないとどうなりますか?

OTセキュリティ対策を怠ると、サイバー攻撃により生産ラインが停止し、数百億円規模の経済的損失や企業のブランド毀損につながる可能性があります。さらに、化学プラントや発電所といった重要インフラでは、物理的な破壊活動や人命に関わる重大事故を引き起こす恐れもあります。

DAIKOXTECH編集部

現場目線で率直に言えば、OTセキュリティの成否を左右するのは、ツールの性能だけではありません。鍵となるのは、情報システム部門と工場現場の「泥臭い対話」です。
いくら高価なシステムを導入しても、現場は「ラインが止まるリスク」を恐れて結局パッチ適用すら進まないケースは少なくありません。
一方で、情報システム部門が現場の設備や運用実態を十分に理解しないまま、正論だけを押し付ければ、現場の反発を招いてしまいます。サポートが終了したOSが生産ラインを支えている工場も少なくありません。
まずは両者が互いの事情を理解し、課題を率直に共有できる関係を築くことです。そのうえで、経営陣がその橋渡し役として、必要な人材や時間を継続的に投資することが欠かせません。
こうした組織間の課題を解消しないまま、技術的な対策だけを積み重ねても、実効性のあるセキュリティ対策として定着させることは難しいでしょう。

まとめ:OTセキュリティは事業継続の生命線!今すぐ対策を検討しよう

本記事では、OTセキュリティの基本概念から、ITセキュリティとの違い、深刻な被害事例、そして具体的な対策の5つの柱と導入ロードマップまでを網羅的に解説しました。DXの進展により、もはやOT環境がサイバー攻撃と無縁でいられる時代は終わりました。生産ラインの停止や人命に関わる事故といった壊滅的な被害を未然に防ぎ、事業を継続していく上で、OTセキュリティはもはや避けては通れない、すべての製造業・重要インフラ事業者にとっての生命線と言えます。

対策の第一歩は、自社の現状を正しく把握することから始まります。本記事でご紹介したロードマップを参考に、まずは資産の可視化とリスクアセスメントに着手してみてはいかがでしょうか。その過程で、経営層の理解を得ながら、IT部門とOT部門が連携し、必要に応じて外部の専門家の力も借りることが、成功への着実な道筋となるでしょう。脅威が現実のものとなる前に、今すぐ行動を起こすことが、企業の未来を守るために不可欠です。

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