
在庫の数量や品質、所在などを管理する在庫管理は企業にとって非常に重要ですが、在庫管理の効率化について課題を抱えている企業も少なくありません。在庫管理を効率化し、適正在庫を維持するためには、在庫管理の基本を理解しておくことが大切です。
今回は、在庫管理の基本である、棚卸資産のマネジメントと現品管理の方法を中心に、在庫管理の基礎知識から効率化のポイント、業務改善に役立つシステムをご紹介します。
目次
在庫管理とは
在庫管理とは、企業の資産である商品や資材などを、適正な数量と品質で管理する活動のことです。管理の対象となる「在庫」が指す内容は業界によって異なりますが、製造業においては、原材料・部品・仕掛品・完成品といった、製造プロセスで取り扱うモノすべてが該当します。会計上の用語では、在庫は棚卸資産と表現されます。
在庫管理を行う目的は、顧客の需要に対し、過不足なく製品を供給できるよう在庫を調整すること、そして、在庫のムダを削減して利益最大化を実現することです。具体的には、在庫の出入庫や返品対応、実地棚卸といった業務の中で、在庫の所在や数量の変動、状態などを正確に把握して、管理・評価をしていきます。
在庫管理の基本
在庫管理の基本は、必要なときに必要な量を確保できるよう、在庫の数量や所在、状態をいつも正確に把握することです。そのためには、定期的な棚卸によって帳簿と実際の数量を照合し、誤差やロスを早期に見つけて修正することが欠かせません。
現品管理を徹底して、どこに、どの状態で保管されているのかを明確にしておくのも重要です。倉庫内のルールが整理され、誰でも同じ基準で出入庫を行える環境が整っていれば、誤出荷や欠品のリスクは大きく減少します。
こうした基本の積み重ねによって、在庫の過不足を防ぎ、安定した供給体制と健全な資金繰りを実現できます。
在庫管理の目的とその必要性を示す3つの理由
在庫管理の目的は、顧客への安定供給を実現しつつ、経営の効率性を高めることにあります。適正な在庫が確保されていれば、注文にすぐ対応でき、販売機会を逃すことはありません。しかし、在庫が過剰または不足していると、企業はさまざまなリスクを抱えることになります。
ここでは、「資金繰り」「現場効率」「商品価値」の3つの観点から、在庫管理が欠かせない理由を解説します。
キャッシュフローを守るため
在庫は帳簿上では資産ですが、実際に現金化されるのは販売後です。過剰な在庫は資金を倉庫に眠らせることになり、企業のキャッシュフローを圧迫します。
たとえば、仕入れや製造に投じた資金が在庫として滞留すれば、広告や新商品開発、取引先への支払いといった本来必要な資金に回せなくなります。黒字経営でも資金繰りが悪化し、最悪の場合は黒字倒産に至ることさえあります。
さらに、在庫を保管しているだけで、倉庫の賃料や光熱費、保険料、固定資産税などのコストが発生します。廃棄が必要になれば処分費までかかります。
現金であれば自由度高く活用できる資金も、過剰在庫となれば企業の収益を削る要因にしかなりません。そのため、適正な在庫管理は健全なキャッシュフローを守るうえで不可欠です。
現場を効率化するため
現場効率の改善を図ることも、在庫管理の重要な目的のひとつです。
在庫を抱えすぎると、現場の作業効率は大きく低下します。倉庫スペースが圧迫され、商品の探索や棚卸に時間がかかり、作業の無駄が増えるからです。
例えば、在庫が積み上がった倉庫では、新たに入庫した商品を奥に押し込み、出庫時に移動させるといった非効率が発生します。このような手間は付加価値を生まないばかりか、人件費や物流コストを押し上げます。
さらに、帳簿と実際の在庫に差異が出ると、在庫不足による欠品や重複発注などのトラブルも起きやすくなります。こうした混乱は従業員の士気を下げ、ヒューマンエラーを増加させ、生産性全体の低下につながります。
商品価値を維持するため
在庫は時間とともに価値を失っていきます。食品や消耗品は品質や使用期限の問題があり、アパレルや家電は流行やモデルチェンジによって陳腐化が避けられません。
例えば、シーズン商品は売れ残った時点で価値が急落し、最終的には値下げ販売や廃棄に追い込まれます。利益の減少だけでなく、古い商品を扱っているというイメージが定着すれば、ブランドの信頼性にも影響します。
また、滞留在庫を抱えれば棚卸資産の評価減が必要となり、財務指標の悪化にも直結します。
商品価値を守り、ブランドや財務健全性を維持するためにも、在庫管理は欠かせないといえるでしょう。
在庫管理の4原則とは
在庫管理の4原則とは、効率的かつ効果的な在庫管理を実現するための基本的な4つのポイントです。企業規模や業種を問わず、すべての在庫管理における現場での重要な指針です。
- 在庫所在がすぐわかる
- 在庫の数量がすぐわかる
- 先入れ先出しができる
- アクションのポイントがわかる
これら4原則を適切に実践すると、在庫切れによる販売機会の損失を防ぎ、過剰な在庫を持つことなく適正な在庫量を維持できます。また、商品の鮮度管理も適切に行えるようになり、廃棄ロスの削減にもつながります。
結果的に、企業の業務効率は大きく向上し、健全な財務状態の維持が可能です。4原則に基づいた在庫管理は、顧客満足度の向上や取引先との良好な関係を構築できます。
在庫管理の方法
在庫管理の方法として一般的なのが、エクセルを使用した管理とシステムによる管理の2つです。企業の規模や業務内容によって、それぞれにメリット・デメリットがありますので、自社に適した方法の選択が重要です。
以下では、各管理方法の特徴と、どのような企業に向いているのかを詳しく解説します。
紙で管理する
帳簿や伝票といった紙を用いるやり方も効果的です。記録用の台帳に入出庫の状況を手書きで残すため、特別な設備やシステムを導入しなくてもすぐに始められるのが大きなメリットです。小規模な事業や取り扱う在庫の種類が少ない現場では、初期費用をかけずに管理体制を整えられるため、今でも一定の需要があります。
一方で、紙による管理は人の手作業に依存するため、記入漏れや転記ミスといったヒューマンエラーが発生しやすく、在庫数の把握に誤差が生じやすいのがデメリットです。
また、情報が紙に分散してしまうため、在庫状況をリアルタイムで共有することが難しく、棚卸や在庫確認に多くの時間と労力を要します。規模が大きくなるほど非効率が目立つようになり、業務全体のスピードや精度に影響が出る点は避けられません。
そのため、紙での管理は在庫を可視化したいという段階では有効ですが、長期的にはより効率的な方法への移行を検討してください。
エクセルで管理する
エクセルによる管理は、商品名や品番、入出庫数、処理日などを記入する在庫管理表を作成し運用する方法です。エクセルテンプレートや関数を利用することで、基本的な在庫管理ができます。
導入・運用コストがほとんどかからない点が最大のメリットですが、入力ミスや重複入力のリスクがあり、リアルタイムでの在庫把握も困難です。また、他の在庫管理ツールとのデータ連携が難しいという課題もあります。
そのため、エクセルでの管理は主に零細企業や中小企業など、本格的なシステム導入が必要ない規模の企業に適しています。
システムで管理する
在庫管理システムは、製品の在庫情報や入出庫情報を一元管理できるツールです。多くのシステムは棚卸機能や在庫分析機能を備えており、作業効率の向上やヒューマンエラーの軽減が期待できます。特に近年主流となっているクラウド型システムでは、リアルタイムでの在庫状況把握が可能です。
ただし、導入には相応のコストがかかり、システムを使いこなすまでに時間を要するというデメリットがあります。
また、システムの一部として提供される在庫管理アプリは、大企業での利用にも適していますが、単体のアプリは基本的な機能のみを提供するため、中大規模企業での活用には適していません。
在庫管理を効率化する方法
在庫管理をさらに効率化するために知っておきたい方法は、以下の通りです。
先入れ先出しの徹底
先入れ先出しとは、先に仕入れた在庫から順に消費・出荷していくことです。原材料から完成品まで、古いモノから先に払出しされるため、在庫が出荷できない状態まで劣化することを防げます。
ムダな廃棄が起こりにくくなり、またこのルールで統一されていると在庫量や仕入原価の変動を把握する作業負荷も軽くなります。
ロケーション管理を徹底する
ロケーション管理とは、倉庫内のエリアを区分して在庫の所在や保管場所を管理することです。一般に、ロケーション管理は以下の3種類に分類でき、状況に応じて最適な方法を選定することが大切です。
- 固定ロケーション
固定ロケーションとは、在庫の保管場所を固定する管理方法です。同一カテゴリの在庫が同じ区画に管理されるため、倉庫内に在庫が点在することがありません。在庫を保管するエリアや棚、列、連、段がわかれば誰でも在庫状況を特定できるため、業務の平準化が期待できます。また、在庫の保管場所が定められていることで担当者が記憶・確認しやすく、出入庫の対応もスピーディになるため、おすすめです。 - フリーロケーション
フリーロケーションとは、保管場所を定めず、倉庫の空いている棚に随時在庫を保管する管理方法です。入荷する製品が頻繁に変わる場合、固定ロケーションでは保管場所のルール変更も頻繁に行う必要がありますが、フリーロケーションではその必要がなく、空きスペースも有効活用することができます。 - ダブルトランザクション
ダブルトランザクションとは、倉庫内で固定ロケーションを行うエリアとフリーロケーションを組み合わせる管理方法です。固定ロケーションとフリーロケーションのメリットを享受することができますが、固定ロケーションへの補充作業が必要となるため、作業工数が増えるというデメリットがあります。
ABC分析を行う
ABC分析とは、在庫管理において売上高や出荷量、コストといった評価軸を定め、在庫に優先順位(A・B・C)を付けて管理する方法です。 ABC分析の考え方として基本的には、一定期間内の製品ごとの売上高を評価基準とします。
売上高が高い(総売上に対する売上構成比が高い)製品から順に重要度をランク付けし、重要度の高い製品に対して優先的にリソースを割り当てます。在庫管理にかけるリソースを最適化することで、業務のムダ削減を目指せます。
バーコードやタグ、在庫管理システムの活用
在庫管理を手入力や紙ベースで行っている場合、バーコードやタグ、在庫管理システムの導入によって作業を大幅に効率化できます。出入庫による在庫数量の変動や、出荷スケジュールを電子化できる機能があり、在庫管理の業務における平準化やコスト削減が期待できます。
在庫管理システム導入のメリット
在庫管理業務の効率化には、在庫管理システムの導入が有効的です。本章では、在庫管理システムの導入によって得られるメリットを3つご紹介します。
①余剰在庫が少なくなる
在庫管理システムを導入することで、在庫が現在何個あるのか、何個出荷予定なのかなどの在庫情報をより正確に、データで把握することができます。すると、過去の正しいデータを基に需要予測を立てられるため、適正量の資材発注や過不足の誤差を少なく抑えた生産につながり、余剰在庫を削減できます。
②ヒューマンエラーを削減できる
手作業で行っていた業務を自動化することが可能なため、ヒューマンエラーを削減する効果も期待できます。例えば、現品管理業務の中で発生していた伝票の手書き/手入力をバーコード読込などの機能で自動化できると、記入・入力にともなうヒューマンエラーは発生しません。特に、大量に資材を受け入れるときは、手早く作業を済ませることができます。
③リアルタイムで情報共有ができる
資材の手配状況や納期管理、現在庫と在庫予測といった情報は案件ごとに日々動いています。そうした情報を在庫管理システムでリアルタイムに共有することができれば、問題の未然防止にもつながります。特に個別設計生産を行う企業では部門間の情報を一元管理・共有することで、生産性の向上や確認、意思決定のスピード向上につながります。
在庫管理システム導入のデメリット
在庫管理システムの導入は、業務効率化や在庫の適正化など多くのメリットをもたらしますが、一方で考慮すべき課題もあります。特に重要なのが、導入時のコストと社内体制の整備に関する以下の2つのデメリットです。
①導入にコストがかかる
システムの種類は豊富にありますが、どのシステムを選択しても相応のコストが発生します。高価なものでは数百万円規模の投資が必要となるケースもあり、導入前に十分な予算の確保が必要です。
ただし、在庫管理の適正化によって「ムダな在庫の排除」や「生産性向上による利益率の改善」といったメリットが得られれば、長期的には投資効果が期待できます。そのため、導入前に具体的な効果を試算し、投資対効果の十分な検討が重要です。
②社内体制を整備する必要がある
在庫管理システムはITツールです。そのため、電子機器の操作に不慣れな従業員や、新しいシステムへの対応に抵抗がある従業員にとっては、使いこなすまでに時間がかかる可能性があります。
システムの能力を最大限に発揮するためには、指定された正しい使用方法を実行する必要があり、そのための社内体制の整備が不可欠です。場合によっては、システムを使いこなせる新たな人材の採用や、既存の従業員への教育期間の設定などの対応が必要となります。
在庫管理システムの効果を最大化する方法
有益な導入効果が期待できる在庫管理システムですが、実際に導入しても適切に運用することができなければ大きな効果は望めません。本章では、導入効果の最大化を図るため必要な3つの方法について解説します。
導入目的の明確化と共有の徹底
導入効果を得るためには、まず、導入目的を明確にして社内で共有することが重要です。
従業員にとっては新システムの導入によって新たに覚えてなければならないルールやタスクが増えることになります。
そのため、導入前に「なぜ在庫管理システムを導入するのか」「導入によってどのような効果が望めるのか」を明確化して共有し、従業員の理解を得た上で導入することが大切です。 情報共有の際に「余剰在庫がなくなることでキャッシュフローが良くなる」といった会社目線のメリットだけでなく、「仕事を効率化して従業員の負担を軽減する」といった従業員にとってもメリットのある導入目的を明示することが重要です。
従業員教育を行う
システムの導入効果を最大化するためには、運用のルールを定めてそれを全員が守ることが求められます。
システムによって在庫情報などが自動管理されるようになりますが、共通の運用ルールを決め、それが守られることではじめて全社的に業務が平準化・効率化されます。
企業は、ルールが順守されるように従業員にルールを周知し教育を行うことが大切です。加えて、ルールは従業員からのフィードバックなどを取り入れて、定期的に修正して更新すると良いでしょう。
連携やカスタマイズ性の高いシステムを選定する
在庫管理の導入する際は、在庫管理以外の業務システムとの連携や、自社に合わせて機能をカスタマイズできるものを選定することで、より導入効果を得やすくなります。
在庫管理システムにはオンプレミス型とクラウド型があり、企業や現場の環境やニーズに適したシステムを選択すると良いでしょう。
- オンプレミス型
自社でサーバを設置し、システムベンダーから購入したソフトウェアをインストールして運用を行うのがオンプレミス型です。
<特徴>
・カスタマイズの自由度が高く、大規模環境への導入に適している
・サーバ、ネットワーク機器、ソフト、ライセンスなどを購入してネットワーク環境を整備する必要があるため、初期費用が高額になりやすく導入にも時間がかかる
・自社内でクローズするため、運用管理業務や独自のセキュリティ体制が必要
- クラウド型
インターネット経由で外部リソースを月額もしくは年額で利用してシステム構築を行うのが、クラウド型です。
<特徴>
・初期コストが無料もしくは低額で、アカウント登録後すぐに利用可能
・運用管理業務が発生しないため、本来の業務に注力できる
・外出先などでのモバイル利用も可能
正しい現品管理・棚卸資産のマネジメントを行いつつ、連携度の高いシステムで在庫を適正化しよう!
適正在庫を維持し、企業のキャッシュフロー改善や利益率の向上を図るために、在庫管理は非常に重要です。企業によってモノを管理する場所や方法も違いますが、基本的な5Sや管理体制を押さえ、必要に応じて自社の環境にマッチするシステムも活用しながら正しい在庫管理を行う必要があります。
以下では、在庫管理を適正化するDAIKO XTECHのハイブリッド販売・生産管理システム「rBOM」をご紹介しています。現在の在庫管理体制の見直しにご関心をお持ちの方は、ぜひご一読ください。
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3つの課題解決BOOK

- この記事を監修した人
- 入社後15年間、長野支店にてシステムエンジニアとして活動。
運送業、倉庫業のお客さまを中心に担当し、業務システム構築からインフラ環境構築等の経験を積む。
その後、製造業のお客さまも担当し、rBOM導入のプロジェクトにも関わるように。
16年目に現部門に異動し、rBOM全国支援の担当者となる。
現在はrBOMだけではなく、製造業全般のソリューション提案を手掛けている。
料理が趣味、これからお菓子作りにも挑戦しようか迷っている。 - DAIKO XTECH株式会社
ビジネスクエスト本部
インダストリー推進部 - 田幸 義則










