モジュール化とは、装置全体の図面を機能単位に分割し、全体を機能的なまとまりに再定義することです。モジュール化を行うことで、個別受注生産で求められる設計の効率化や生産性向上を実現できます。
本記事では、モジュール化の概要、メリット、実現に必要な要素を解説します。
目次
設計の「モジュール化」とは
設計のモジュール化とは、製品やシステムを機能ごとに独立したモジュール単位に分割する設計思想です。
各モジュールは単独で設計・製造・交換ができ、他のモジュールと互換性を保つように設計されています。モジュール化により、企業は標準化による効率とお客さまニーズに合わせたカスタマイズの両立を実現できます。
例えば自動車では、エンジン、シャシー、電子制御、車体などのモジュール化により、部品の共通化や開発期間の短縮が可能です。IT分野でも同様で、ソフトウェアをモジュール単位に分けて並行開発・再利用を行うことで品質と生産性を高めています。
製造業はもちろん、サービス産業・ソフトウェア開発にも応用され、企業全体の競争力を左右する重要なアーキテクチャ戦略として位置づけられています。
モジュラー型とインテグラル型の違い
設計思想として、モジュール化(モジュラー型)と対極に位置づけられるのがインテグラル型です。
モジュラー型の特長は以下の通りです。
- 機能とモジュールがほぼ一対一
- モジュール同士の依存を最小化
- 部品を共通化し、複数製品へ流用
メリットは開発効率と再利用性、コスト削減、アップグレードが容易な点です。PC、スマートフォン、フォルクスワーゲンのモジュラー・プラットフォーム「MQB」などが代表例として挙げられます。
インテグラル型の特長は以下の通りです。
- 一つの機能が複数の部品にまたがる
- 部品同士の調整が不可欠
- 製品ごとに最適化を追求できる
メリットは高性能化と高い製品独自性で、代表例は自動車のボディ剛性設計や精密機器などです。
つまり両者の違いは、個々の部品がどれだけ独立しているか、交換と組換えがどれだけ容易かに集約できます。日本の製造業は高性能を求める傾向からインテグラル型が主流でしたが、近年は開発スピード・多品種対応が求められることから、モジュラー型へシフトする企業が増えています。
個別受注生産におけるモジュール化の必要性
個別受注生産(ETO)では、お客さま仕様ごとに設計が異なるため、従来は製品単位での最適化に注力しがちでした。しかし、多様な要求に対し都度フル設計していては、コストとリードタイムが膨らみ、競争優位を維持できません。
そこで必要になるのが、モジュール化されたプラットフォーム設計です。
モジュール化が個別受注生産を変える理由の一つが、モジュール単位での共通化です。
大量生産ほどではありませんが、部品点数を削減し、調達や在庫管理を効率化できます。
次に、注文内容に応じて組み合わせだけ変える点です。設計の手戻りが減り、納期短縮に直結します。
また、高いカスタマイズ性を失わない点も重要です。モジュールを選び替えるだけでお客さま仕様に合わせられます。
ある企業では、この手法ですべて受注生産でありながら部品点数は競合の半分という驚異的効率を実現しています。個別仕様が前提の産業ほど、モジュール化の価値は高いです。
モジュール化と従来の標準化との違い
一見すると、モジュール化は従来の標準化の強化版と思われがちですが、両者は目的も範囲も異なります。
|
項目 |
従来の標準化 |
モジュール化 |
|
本質 |
部品や工程を統一する活動 |
製品構造そのものを再構成する設計思想 |
|
目的 |
バラツキ削減・品質安定化 |
カスタマイズと効率の両立 |
|
範囲 |
主に部品・工程レベル |
部品・モジュール・プラットフォーム全体 |
|
効果 |
製造効率の向上 |
開発・製造・調達・保守を包括的に最適化 |
従来の標準化が同じものを作るためのルールづくりであるのに対し、モジュール化は異なるものを効率よく作るための設計戦略です。
標準化はあくまで手段の一つですが、モジュール化は企業の製品戦略、組織構造、サプライチェーンにまで影響する包括的アプローチです。
設計の「モジュール化」のメリット
1つ目のメリットは、案件化から受注に至るまでの仕様確認、および見積積算、設計・出図といった設計業務全体の工数削減につながることです。間接業務を減らすことにより、次工程にもスムーズに進み、業務のスピードアップにも寄与します。
2つ目のメリットは、図面の再利用率が上がることで、品質の安定化・向上が望めることです。さらに、計画的な生産を進められるようになり、リードタイム短縮も期待できるでしょう。
これらのメリットにより、最終的にはQCD向上による製品競争力強化につながります。自社に合った形でモジュール化を進めることで、企業全体の利幅を増やすことになるわけです。
では、モジュール化を進めるためには、具体的にどのような視点が必要なのでしょうか。
設計の「モジュール化」に必要なこと
モジュール化は、製品を独立した部品単位に分割し、それらを共通化、組み合わせることで多様な製品を効率よく提供できる設計手法です。製造業はもちろん、自動車、家電、IT、航空宇宙まで幅広い業界が取り入れる理由は、メリットがとても多いからです。
ここでは、製造業における主なメリットを解説します。
共通部品の管理ができる
モジュール化の最も直接的な効果は、共通部品の一元管理が可能になる点です。
製品ごとに異なる部品を設計していては、部品点数が増え、調達、在庫管理、品質管理の複雑性が一気に高まります。モジュール化を進めると、複数製品で同じ部品やモジュールを使い回せるため、部品体系を大幅にシンプルにできます。
- 部品点数が減る
- 管理対象が明確になる
- 部品調達、在庫管理が効率化される
ある企業では、モジュール化で部品点数を競合の半分まで減らしながら、すべて受注生産に対応するという驚異的な効率を実現しています。
モジュールを他の製品でも利用できる
モジュール化の核となる価値は、開発済みモジュールを他の製品へ横展開できる点です。
一度開発したモジュールは、次の製品でもほぼそのまま利用できるため、設計リソースを新しい価値創造に集中できます。PCや自動車、スマートフォンなど多様な分野でこの効果が実証されています。
再利用性が高まると、企業の開発スピードは加速し、新製品投入までのリードタイムも短縮されるのが大きなメリットです。
製造コストが削減できる
モジュール化は、製造コストの削減に大きくつながります。理由は3つです。
- 部品点数削減による調達コストの低下
- 共通モジュールの大量生産による規模の経済の実現
- 生産ライン切替の簡素化による製造効率の向上
ある自動車企業ではモジュール化プラットフォームを導入し、1台あたりの生産コストを20%削減、立ち上げ時間を30%短縮したと報告しています。モジュール化された工程は自動化との相性もよく、製造ラインの安定稼働にもつながっています。
品質の一貫性を確保できる
モジュール化された製品は、品質管理がモジュール単位で完結するため、品質の一貫性を維持できます。
- 各モジュール単位で検査
- 不具合発生時は該当モジュールのみ改修
- 問題の波及を最小限に抑えられる
PC部品のように、モジュールごとに独立した検証プロセスを設ければ、品質基準をブレなく維持できます。また、モジュールの再利用が進むほど、過去の検証データが蓄積され、品質が安定します。
不良品率の低下はリコールリスクの軽減にもつながり、サプライチェーン全体の信頼性を高める効果もあるのが大きいです。
お客さまによる仕様変更要請に迅速に対応できる
個別受注生産(ETO)を行う企業にとって、仕様変更への対応力は競争力そのものです。モジュール化は変更対応を劇的に容易にします。
- お客さまの要求に合わせてモジュールの組み替えだけで対応
- 設計変更範囲を最小に抑えられる
- リードタイムが短縮され、納期遵守率が向上
特に、モジュールごとのインターフェースが標準化されている場合、変更は入れ替え、追加、削除で済むため、見積精度も高まります。
仕様変更が頻発する産業ほど、モジュール化の価値は際立ちます。
設計の「モジュール化」に必要な要素
モジュール化を進めるための大前提として、次の2点が求められます。
1.部品の共通化
まず、設計をモジュール化するためには、部品が共通化されている必要があります。そして、各部品を汎用的に活用できるようにするためにも、登録コードや型式、規格番号、メーカー名などの情報を一元的に管理することが重要です。
2.流用可能な設計の蓄積
続いて、各機能のモジュールを流用できるように、設計情報を蓄積することが求められます。ここで着目すべきは、各人の端末に保管されているナレッジや関連資料です。これらを部門内外で共有できるようになれば、保管している過去の情報を横断的に検索することで、類似の図面の流用やノウハウの継承が容易になるのです。
そして、こうした取り組みを進める上で最重要になることが、部品表(BOM)を中心としたモノづくりの実現です。
設計の「モジュール化」の課題と解決策
モジュール化は多くのメリットをもたらす一方で、導入段階から運用フェーズまで課題も見逃せません。課題を正しく理解し、適切な対策をとることで、モジュール化の効果を発揮できます。ここでは、主な課題と解決策を解説します。
初期導入コストの高さ
モジュール化の大きなハードルが、導入初期に発生するコストの大きさです。
モジュール境界の設計、インターフェースの標準化、共通部品群の定義、各モジュールの検証。いずれも短期では回収しづらい投資が必要です。ある企業のプラットフォーム開発でも、最初に大きなNRE(開発投資)を要しています。
しかし、これは長期的に見ると十分回収可能な投資です。一度つくったモジュールを長期間使い回すというモジュール化の本質が、その費用を吸収するためです。
解決策は以下の通りです。
- モジュールを段階的に導入し、最初から全領域に広げない
- 投資対効果が高いモジュールから優先導入する
- 中長期で回収する前提で社内合意を得る
- 設計・製造・調達を横断したプラットフォーム戦略として扱う
初期費用を単年度の改善活動として捉えず、企業基盤の再構築と位置づけることが重要です。
管理の煩雑化
モジュール化が進むほど、モジュール間インターフェース管理やバージョン管理の負荷が高まります。インターフェース定義の不備は重大なリスクです。
特に以下の問題が起こりやすいです。
- モジュール間の整合がとれなくなる
- バージョン差異による不具合
- 変更が他のモジュールへ波及
- モジュール単位の在庫・調達管理の煩雑化
モジュール化が単なる部品管理の延長ではなく、アーキテクチャ管理を必要とする高度な仕組みであることを意味しています。
解決策は以下の通りです。
- インターフェース仕様を厳密に文書化し、変更管理プロセスを統一する
- モジュールごとの責任者(モジュールオーナー)を設ける
- PLM(製品ライフサイクル管理)システムでバージョン管理を一元化する
- 全体設計責任者(アーキテクト)を配置し、横断調整を行う
管理レベルを一段引き上げると、モジュール化の複雑性はコントロール可能です。
カスタマイズ性の制約
モジュール化は柔軟性を高める一方で、完全な最適化を行うインテグラル型に比べると制約が生まれます。懸念点は以下の通りです。
- 共通インターフェースに合わせるため形状・性能に妥協が必要
- 共通プラットフォームゆえに製品デザインの自由度が下がる
- モジュールが増えすぎると複雑化し性能低下を招く
お客さまごとに最適設計したい産業では、この制約が大きく感じられる場合もあります。
解決策は以下の通りです。
- モジュール化すべき領域と専用設計が必要な領域を明確に分離する
- モジュールごとに性能幅を設け、派生バリエーションを持たせる
- コアモジュールとカスタムモジュールを併存させる二層構造にする
つまり、すべてをモジュール化すれば良いのではなく、カスタマイズの必要性が高い領域だけ、インテグラル型を残すというバランスが重要です。
既存製品との互換性リスク
モジュールを刷新した際、既存の製品や過去バージョンとの互換性が失われる危険があります。課題は以下の通りです。
- 新モジュールが旧モジュールと接続できない
- 下位互換性が崩れ、既存資産が使えなくなる
- モジュール間の想定外の相互作用による不具合
- 一つのモジュール不良が複数製品へ波及するリスク
モジュール化は互換性によって価値を生むため、このリスクは事業継続性にも直結します。
解決策は以下の通りです。
- インターフェースの改訂時は下位互換性の確保を原則とする
- モジュール更新時に全システムで適合性試験を実施する
- デジタルツイン・モデルベース開発(MBSE)などのシミュレーションで事前検証する
- 代替モジュールを用意し、リスク分散する
- サプライヤを複数化して共通部品リスクを緩和する
互換性管理はモジュール化の生命線であり、設計段階から慎重に扱う必要があります。
部品表を中心とした情報の一元管理で「設計のモジュール化」推進
モジュール化は設計の効率化と生産性向上を実現できる一方で、初期コストの高さや、モジュール間の煩雑な管理という課題が伴います。
これらの課題を解決する一つとして、モジュール化の効果を最大限に引き出す鍵となるのが、部品表(BOM)を中心とした情報の一元管理です。手作業による管理では限界があり、モジュール化の複雑性が増すほど、そのリスクは増大します。
PDM(製品データ管理)やPLM(製品ライフサイクル管理)システムを活用し、BOMを全社で共有・管理することで、設計変更時の手戻りを解消し、モジュールのバージョン管理ミスを防ぐことができます。
まずはBOM管理体制を見直し、情報基盤の整備から着手しましょう。
おすすめのお役立ち資料はこちら↓

個別受注生産・多品種少量生産企業の あらゆる問題を解決!
製造業必見!「BOM詳解」

- この記事を監修した人
- 入社後15年間、長野支店にてシステムエンジニアとして活動。
運送業、倉庫業のお客さまを中心に担当し、業務システム構築からインフラ環境構築等の経験を積む。
その後、製造業のお客さまも担当し、rBOM導入のプロジェクトにも関わるように。
16年目に現部門に異動し、rBOM全国支援の担当者となる。
現在はrBOMだけではなく、製造業全般のソリューション提案を手掛けている。
料理が趣味、これからお菓子作りにも挑戦しようか迷っている。 - DAIKO XTECH株式会社
ビジネスクエスト本部
インダストリー推進部 - 田幸 義則










