会社にとって、適正在庫の把握は利益を最大化するために必要不可欠です。しかし、適正在庫の計算方法や維持方法を難しいと考えている方も多いのではないでしょうか。適正在庫を求めるためには4つの方法を押さえておくことが大切です。この記事では、適正在庫の計算や、維持のための基礎的な方法を解説します。

適正在庫とは
適正在庫とは、過不足のない適切な在庫量のことです。適正在庫を理解するために、3つの要点を押さえておきましょう。
- 適正在庫が重視される理由
- 適正在庫の課題
- 適正在庫と安全在庫の違い
適正在庫が重視される理由
適正在庫は、会社の健全な経営を維持するために重要です。適正在庫を維持すれば、コストを最小限に抑えつつ、利益の最大化を目指すことができます。
また、在庫の欠品や過剰状態を無くすことにより、キャッシュフローの改善や業務効率の向上、お客様満足度の向上にも有効です。
このほかにも、適正在庫の維持は発注コストの圧縮、需要変動への柔軟な対応につながります。
適正在庫の課題
健全な会社経営には、過剰在庫や商品の欠品の解消が課題です。在庫管理が適切でないと、次のような問題が引き起こされます。
商品の欠品は、販売機会の損失につながります。欠品状態が続けば、購買意欲の低下や会社への信頼喪失を招きかねません。一方、過剰在庫も管理費用などのコストの増加や作業効率の低下を引き起こす恐れがあります。
在庫は会社の資産である一方、現金化されない限り資金として利用できません。社内におけるお金の流れが悪くなり、黒字倒産を招くこともあり得ます。適正在庫によって、在庫を現金化できればキャッシュフローが改善され、収益の安定につながるでしょう。
このほかにも、商品の品質劣化や、不良在庫の発生、滞留在庫による値引き商品の増加や
商品回転率の低下などのリスクがあります。
適正在庫と安全在庫の違い
安全在庫とは、欠品を防ぐための必要最低限の在庫量のことです。適正在庫と異なり、欠品防止を目的に余剰在庫の最小値を決めるために計算します。
安全在庫は、季節や流行といった変動する需要に対応するために設けられます。適正在庫が在庫量の下限と上限を求める一方、安全在庫は下限のみ求めるのが特徴です。安全在庫は次のような式で求めることができます。
安全係数(1.65) × 使用量の標準偏差 × √(発注リードタイム+発注間隔)
安全係数は欠品許容率を指し、一般的に欠品許容率5%にあたる1.65が使用されます。また、使用量の標準偏差とは、過去の出荷量または販売量の平均値です。
安全在庫は、急な受注や設備トラブルによる製造中止など、予測できない事態が発生した際に欠品が出ないようにするための在庫です。適正在庫は、安全在庫の考え方から、需要に対する適切さや会社全体にとっての最適化へと展開させた考え方といえるでしょう。
適正在庫の計算方法
適正在庫の数を求めたり、適正在庫が適切であるかを測ったりするためには、さまざまな計算方法があります。この記事では、特に代表的な下記の5つの計算方法をご紹介します。
①安全在庫+サイクル在庫で計算
②安全在庫+需要数で計算
③交叉比率で計算
④在庫回転率÷在庫回転日数で計算
⑤在庫回転率+在庫回転期間で計算
①安全在庫+サイクル在庫で計算
適正在庫の代表的な計算方法が、安全在庫+サイクル在庫で計算する方法です。計算がしやすく、適正在庫の基本的な計算式といえます。
安全在庫は、安全係数(1.65) × 使用量の標準偏差 × √(発注リードタイム+発注間隔)で求められます。一方のサイクル在庫とは、発注と発注の間に消費される在庫の半分の量のことです。発注の間隔が10日であれば、5日目までに消費された在庫がサイクル在庫です。
たとえば、使用量の標準偏差が300個、発注リードタイムが10日、発注間隔が6日だった場合、安全在庫は1,980個と求められます。さらに、サイクル在庫が120個だった場合、適正在庫は2,100個です。
計算式:
安全在庫=1.65×300×√(10+6)=1,980(個)
適正在庫=1,980+120=2,100(個)
安全在庫やサイクル在庫を求めるときには、季節変動やトレンドの影響などを考慮する必要があります。予測に加え、それまでの需要をデータに残しておく必要があることにも注意が必要です。
②安全在庫+需要数で計算
安全在庫+需要数を用いて適正在庫を求める方法もあります。お客様のニーズを反映させる計算方法なので、店舗など現場を中心に利用されます。
計算で用いられる需要数は、1カ月や1週間など一定の期間の需要数を使用します。前年の同時期のデータや、過去数カ月のデータの平均値などを使用するため過去データの蓄積が必要です。
例:安全在庫2,310個、ひと月の平均需要数3,500個の商品
適正在庫(1カ月分)=2,310+3,500=5,810(個)
安全在庫が2,310個、過去データから求めたひと月の平均需要数が3,500個の商品では、1カ月の適正在庫が5,810個です。この方法では過去データを利用するため、需要数の安定した商品の適正在庫を求めるのに向いています。
新商品の販売で適正在庫を求めたい場合には、計算に用いる数字を販売計画数に変えて適正在庫を計算可能です。安全在庫の算出時に使用する使用量の標準偏差、発注リードタイム、発注間隔を予想される数値で代入、さらに需要数も販売計画数を代入して適正在庫が求められます。
需要数はさまざまな条件により変動するため、市場の動向などもチェックしておくとより精度が上がります。
③交叉比率で計算
適正在庫の計算には交叉比率を用いる方法もあります。主に小売業で利用され、適正在庫金額を算出する計算方法です。
交叉比率とは、商品に対する在庫投資がどれくらい粗利益をあげているかを見る指標です。交叉比率が高いほど利益を出しやすい商品だといえます。交叉比率は以下の式で求めることができます。
交叉比率 = 在庫回転率 × 粗利益率
交叉比率を求めることができたら、次の2つの式を用いて目標在庫回転率と適正在庫金額を算出します。
目標在庫回転率 = 交叉比率 ÷ 粗利益率
適正在庫金額 = 売上目標 ÷ 目標在庫回転率
例:交叉比率40、粗利益率10、売上目標400万円、販売単価2,000円の場合
目標在庫回転率=40÷10=4
適正在庫金額=400÷4=100(万円)
適正在庫=1,000,000÷2,000=500(個)
交叉比率が40、粗利益率が10の場合、目標在庫回転率は4です。さらに400万円の売上目標を在庫回転率で割ると、適正在庫金額は100万円です。適正在庫金額を、販売単価で割ることで、適正在庫を求めることができます。
交叉比率を用いて適正在庫を求めると、利益の出やすい商品を明確化できます。
④在庫回転率÷在庫回転日数で計算
在庫回転率÷在庫回転日数で計算する方法は在庫管理が適正に保たれているか測るもので、適正在庫を求める代表的な手法です。ある期間で在庫がどの程度入出庫するか示す在庫回転率と、入出庫にかかる日数を把握する在庫回転日数を用いて算出します。
在庫回転率と在庫回転日数は、それぞれ以下の計算式で求められます。
在庫回転率=売上原価(月間または年間)÷平均在庫金額
在庫回転日数=日数 ÷ 在庫回転率
年間の売上原価が200万円、平均在庫金額が10万円だった場合、在庫回転率は20です。1年間のうちに20回在庫が入れ替わったことになります。在庫回転日数は365÷20=18. 25日と求められるので、在庫が入れ替わるのにおよそ18日かかったことがわかります。
在庫回転率が高く、在庫回転日数が短いほど、短期間で大量の在庫が現金化されており、在庫管理が適切だといえるでしょう。この計算方法を使用すれば、在庫がどれだけ効率的に売れているのか把握できるので、商品ごとに生産ペースの調整も可能です。
⑤在庫回転率と在庫回転期間で計算
在庫回転率と在庫回転期間の計算式を用いても、適正在庫が保たれているか知ることができますを求めることができます。
在庫回転期間とは、製品の在庫がすべて売れるまでにどれくらいかかったかの平均期間を指します。在庫回転期間が短ければ、短期間に在庫をなくすことができるので、需要が高い商品といえます。
在庫回転期間を求める計算式は以下の通りです。
在庫回転期間=月間平均在庫高÷年間売上高×12カ月
たとえば商品Aの年間売上高が400万円、月間平均在庫高が200万円だった場合、在庫回転期間は6カ月とわかります。
例①:商品Aの場合
在庫回転期間=200÷400×12=6(カ月)
一方商品Bは年間売上が400万円、月間平均在庫高が100万円だとすると、在庫回転期間は3カ月です。在庫回転期間から、商品Bの方が需要が高いことがわかります。
例②:商品Bの場合
在庫回転期間=100÷400×12=3(カ月)
この計算方法では、在庫回転率と在庫回転期間を照らし合わせることで適正在庫の見積もりを行います。
適正在庫を維持する方法
健全な会社経営を維持し続けるためには、適正在庫を維持し続けることが大切です。ここでは、適正在庫を維持し続けるための次の5つのtipsをご紹介します。
- 会社全体で適正在庫の指標統一を設ける
- 発注点を徹底管理する
- リードタイムを短縮する
- 需要予測を見直す
- システムを導入する
会社全体で適正在庫の指標統一を設ける
適正在庫を維持し続けるためには、会社全体で適正在庫の指標統一を設けることが大切です。各部門ごとの適正在庫の考えを社内全体で共有しておきましょう。
適正在庫に対する認識の相違がおきやすいのが、販売部門や調達部門です。販売部門は販売の機会損失をなるべく減らしたいと考える傾向にあります。そのため、お客様からの突然の要求にも常に応えられるよう、過剰在庫になってしまうのです。
一方調達部門は、原材料の仕入や運送になるべくコストがかからないようにと考えます。そのため一度に大量に原材料を仕入したり、1回の運送量を少なくしたりして、余剰在庫や欠品状態を招く状態に陥りやすくなります。
社内での在庫に対する認識を共有し、自社に最適な適正在庫の在り方について議論しておきましょう。
発注点を徹底管理する
発注点の徹底管理も適正在庫を維持し続けるために大切です。発注点を明確にしておけば、過剰在庫や商品の欠品を未然に防げます。
在庫の発注方法は、定期発注方式と定量発注方式の2種類に分けられます。定期発注方式とは、毎月10日や毎週水曜日など一定の期間で発注する方法です。毎回発注数を計算して発注をかけるので、市場の動向に柔軟に対応できます。在庫回転率が高い、メイン商品に対して使われます。
定量発注方式は、事前に定められた在庫数を下回った時点で、一定量の発注をおこなう方法です。発注量が決まっているため、在庫管理にかかるコストを削減できます。需要に変化が少なく、売上が安定している商品に向いている方法です。
発注の仕組みは、発注のタイミングと発注量が商品に適しているかの吟味が大切です。必要に応じて2つの方法を組み合わせ、自社に合わせた調節をおこないましょう。
リードタイムを短縮する
適正在庫を維持するためには、リードタイムの短縮も大切です。リードタイムの短縮は、管理する在庫数の削減や、欠品による販売機会の損失を防止できます。
在庫管理に関わるリードタイムには、以下の3つが挙げられます。
- 発注リードタイム
- 製造リードタイム
- 出荷リードタイム
発注リードタイムは発注から納品されるまでに必要な日数、製造リードタイムは着手から生産完了までに必要な日数です。出荷リードタイムは出荷から消費者に届くまでに必要な日数を指します。
3つのリードタイムの中でも、適正在庫の維持には製造リードタイムの短縮が効果的です。製造リードタイムの短縮によって、欠品時の対応が迅速になるので、余剰在庫の必要がなくなります。
製造リードタイムは他の2つのリードタイムと比べ、自社でコントロールしやすいため、リードタイムの短縮に取り掛かるときは、製造リードタイムの見直しから始めましょう。
需要予測を見直す
需要予測の見直しも、適正在庫を維持するための方法の一つです。市場は常に変化しているため、需要予測を見直すことは適正在庫の維持に必要不可欠といえるでしょう。
適切な需要予測のためには、過去のデータ分析だけでなく市場の動向分析をおこなう必要があります。通常時の適正在庫の把握に加え、トレンドや季節性といった観点から細やかな分析をおこなうことで需要予測の精度向上につながります。BtoBであれば、直接お客さまに需要予測をどのように実施しているのか聞いてみるのも良いでしょう。
需要予測を、ベテランの勘やそれまでの経験でおこなう会社もあります。人的な予測は、状況の突然の変化に対応しやすいといったメリットがある一方で、予測の不確定性や継続といったデメリットも無視できません。
需要予測の精度を100%にするのは難しいものの、AIなどを導入すれば精度の向上が期待できます。またデータ以外にも、商品の特徴を加味すればより現状に近い需要予測をたてられます。
システムを導入する
適正在庫を維持するために、システムの導入も有効です。管理システムを導入すれば、生産性の向上や精度の高い適正在庫の計算ができます。
適正在庫を維持するためには、在庫数を適切に把握、記録しておく必要があります。ただし在庫状況をExcelに手動で打ち込むのにはかなりの手間がかかり、ミスの要因になりかねません。
在庫管理システムの導入で、在庫の出入りだけでなく位置情報や、入出荷日時、消費期限といった商品状況を簡単に管理できます。システムによっては、在庫状況を会社全体で共有できるため、部門をまたいだ情報共有がリアルタイムで可能です。
在庫管理システムは、簡単に操作できるようになっているものがほとんどです。初期費用は掛かりますが、在庫管理を円滑におこなうためにシステムの導入を検討しても良いでしょう。
適正在庫を求めるときの注意点
適正在庫を求めても、精度が低かったり、方法を間違えてしまったりしては意味がありません。適正在庫を計算するときには、以下の2点に注意が必要です。
- 最初に1年間の平均在庫から計算する
- 定期的に計算する
変動の影響を受けていない1年間の平均在庫から計算する
需要は、1年の中でも大きく変動しておりトレンドや季節といった影響を受けています。1シーズンや1カ月といった短い期間を最初に計算してしまうと、変動の影響を受けていないデータを用いるので適正在庫の精度を下げかねません。1年間の平均在庫を最初に計算することで、需要に影響する大きな要素を考慮できます。
平均在庫は以下の式で求められます。
平均在庫数=(期首の在庫数+期末の在庫数)÷2
期首の在庫数が8,000個、期末が6,500個の場合、1年間の平均在庫は7,250個です。
1年間の平均在庫を最初に計算することで、より現状に即した適正在庫を求められ、余剰在庫や欠品を防ぐことができます。正しい平均在庫を求めるためにも、変動の影響を受けたデータセットをしっかりと蓄積しておきましょう。
定期的に計算する
適正在庫を求めるときには、定期的な計算のし直しが必要です。適正在庫は会社の方針や市場の動向、主力商品の移り変わりなどによって変化していくため、定期的に見直す必要があります。
適正在庫を算出したら、運用してみて問題がないか検証してみましょう。算出された値を基準にして、在庫の過不足が出ていないか、欠品などの頻度はどのように変化したかを確認します。在庫が過不足なく運営され、欠品などの頻度が低下した場合は、値が適切であると判断できます。
一方で、在庫の過不足が発生している場合には計算方法の見直しや、適正在庫がきちんと維持されているか確認しましょう。在庫に異常が起きたタイミングで原因を追究し、放置しないことが大切です。
うまく適正在庫を維持し続けている場合でも、定期的な再計算が大切です。加えて、会社の方針変更や商品の変更、新たなサービスを提供するタイミングでも適正在庫を計算し直すと良いでしょう。
適正在庫を維持して機会損失をなくしコスト削減を目指そう
適正在庫を維持し続けるためには、会社全体で適正在庫の考え方を共有する、発注点をしっかり管理するなどの工夫が必要です。その他にも、リードタイムの短縮や需要予測の見直し、在庫管理システムの導入などに取り組みましょう。
適正在庫を求めるときには、最初に1年間の平均在庫から計算し、定期的に再計算をおこなうことも重要です。精度の高い適正在庫を運用して、コストの削減と利益の最大化を目指しましょう。